激甚化する風水害に備えるために
1. はじめに
日本においては地震災害が注目されがちではありますが、風水害はこのところ毎年のように発生しており、より身近に迫る脅威として捉えやすいものだと思います。従って企業においては、大小様々あるとは思いますが、何らかの具体的な対策を検討しておくべき対象とも言えます。
ここで風水害とは、台風や発達した温帯低気圧に伴う暴風雨によって、強風と大雨による災害が広範囲に入り混じって発生する場合の災害を指します。主な風水害は、「台風」「集中豪雨」「土砂災害」が挙げられますが、2017年九州北部豪雨、2018年西日本豪雨や台風21号、2019年台風15号、19号での被害は記憶に新しいところかと思います。
構造計画研究所では、災害シミュレーションを活用した様々なコンサルティングサービスを提供しています。今回は風水害に着目して、台風による高潮検討、土砂災害の対策検討、台風や集中豪雨による河川氾濫のリアルタイム予測のご紹介を致します。
2. シミュレーションを活用した対策の検討
シミュレーションを活用するメリットは、対象となる地点の状況を取り込み、起こりうる最大の条件を設定することで、状況を再現すること、また繰り返しの検討が可能な点であると言えます。
例えば、沿岸部にある施設を例に、シミュレーションを活用した対策の流れを示します。
3. ソリューションのご紹介
3.1 台風による暴風・高潮シミュレーション
高潮のシミュレーションを行うことで、構造物の被害予測や避難計画等、沿岸部に工場や施設をもつ企業様の対策検討に活用頂いており、ご好評頂いております。
ここで高潮とはどのようなものかを簡単にご説明します。
高潮も実は波の一種ですが、周期が非常に長いため、感覚としては水位が急激に上昇したように感じられます。上昇した海水は通常の波に比べ桁違いに大きいため、一旦浸水が始まると、低地には浸水被害が一気に広がるようになります。
高潮の発生メカニズムは主に3点挙げられます。
項目 | 特徴 |
---|---|
吸い上げ効果 | 気圧の低下に伴い海水が引き寄せられる現象。1hPa低下した場合に海面は1cm上昇し、100hPaでは1m海面が上昇する事になります。 |
吹き寄せ効果 | 風が岸に向かって吹き続ける事で発生する現象。水深の浅い沿岸付近で影響が大きくなります。 |
ウェーブセットアップ | 波が砕ける事に伴い海水が岸側に押し寄せられる現象。 |
日本でこれまで観測された最大潮位は、3.45m(名古屋港)であり、今後、台風の大型化に伴い益々高くなると思われています。
高潮の被害としては、人的被害、家屋被害、ライフラインの被害等様々なものが挙げられますが、こういった被害を未然に防ぐため、「高潮浸水想定区域図」が公開されています。高潮浸水想定区域図では、各都道府県において想定し得る最大規模の台風が発生した場合の浸水深等が公開されていますが、このような図の作成にはシミュレーションの技術が使われています。
高潮浸水想定区域図の作成にあたっては、国が作成した「高潮浸水想定区域図作成の手引」を元に作成されていますが、構造計画研究所では手引に準拠した高潮のシミュレーションを行う事が可能です。都道府県のみならず、沿岸部に工場や施設を持つ企業様には独自の観点に基づいた検討を行える事が特徴です。
シミュレーションの特徴
- 地形情報は公開情報を用いる事が可能なため、準備不要
- 想定する台風をご指定頂ければ、中心気圧・速度・半径の詳細情報は不要
- 台風のコースは対象地域に合わせてご提案が可能
- グラフィカルな図面の作成が可能であり、面的な情報を得られます
- 周辺に河川がある場合には、河川の水位上昇を含めた高潮の検討が可能
- 高潮の結果と連携し、避難シミュレーション等に応用可能
関連情報:2019年台風15号の再現解析
高潮のシミュレーションの一例
3.2 土砂災害シミュレーション
土砂災害のシミュレーションを行う事で、「この斜面は崩れるのか?」「崩れた場合下流域のどこまで波及するか」「周辺にどのような影響を与えるか」等を把握することができ、近隣の被害予測や、被害を最小限に抑えるための擁壁の設計等にご活用頂けます。
土砂災害とは、大きく「地すべり」「崩壊(土砂崩れ)」「土石流」の3つに分類されています。
分類 | 現象 | 被害の特徴 |
---|---|---|
地すべり | 比較的緩やかな斜面において、地中の滑りやすい層(粘土等)の地盤が地下水の影響を受けて、ゆっくりと動き出す現象の事を指す | 年単位で徐々に動く事や、一度に広い範囲が動くため、大きな被害をもたらす |
崩壊(土砂崩れ) | 急勾配の斜面が集中豪雨や地震などにより、地盤が緩み抵抗力の低下や浮石の抜け出しが生じて、瞬時に斜面が崩れ落ちるものを指す | 突発的であり、崩れ落ちるスピードが早いため、人家の近くで発生した場合に逃げ遅れ等、人的被害が大きくなる |
土石流 | 斜面からの崩壊物や渓床に堆積している土砂が、集中豪雨などの強くまとまった雨を要因として、一気に下流へ押し流される現象を指す | 堆積物を含むため、破壊力がとても大きく、人家田畑を押し流し大きな被害をもたらす |
構造計画研究所では、これからの土砂災害による影響を、様々なシミュレーションにより評価します。
斜面の安定性解析
二次元場での有限要素法を用いて、周辺地盤から対象地盤をモデル化し、斜面のすべり安全率(滑動力と抵抗力の比率)を算定します。モデル化や計算、図化等の解析システムを用意しており、対象とする斜面の崩壊を検討できます。
比較的簡便に斜面の安定性を評価する場合に最適です。
関連情報:ソフトウェア販売
斜面崩壊及び下流域への影響評価
より詳細に斜面崩壊をシミュレーションする場合には、個別要素法(DEM)や粒子法と呼ばれる手法を適用すること事が可能です。先にご紹介した有限要素法に比べ、斜面が崩壊する現象を詳細に表現することが可能となります。
下図に示すように、例えば山間に存在する倒木を考慮に入れることで土石流の流れの変化を追えることや、崩壊した土砂がどの程度の距離まで到達するか等を評価できるため、近隣の被害予測等にご活用いただけます。
3.3 リアルタイム洪水予測/外水氾濫シミュレーション
近年、台風の大型化や集中豪雨が顕著になってきました。日本では過去にいくつもの水害が発生していますが、水害の中にも「外水氾濫」と「内水氾濫」が存在します。
「外水氾濫」は、台風や集中豪雨により、河川の水が堤防から溢れたり、堤防が決壊したりすることにより生じる洪水を指します。外水氾濫は大量の水が一気に押し寄せることとなるため、短時間で甚大な被害をもたらし、人的被害にも繋がっています。人的被害を抑えるためには早めの避難が必要となりますが、ギリギリのタイミングでの避難はかえって避難途中に洪水に巻き込まれる可能性があり、洪水予報等の注意・警戒情報に十分留意して行動をとる事が重要です。
「内水氾濫」は、市街地などで降った雨が排水路や下水管の雨水処理能力を超えた場合に、川に排出できなかった水が、市街地内で溢れてしまう浸水害の事を指します。都市部ではコンクリートで道路が覆われている事から、雨水が地面に浸透しにくい構造になっており、内水氾濫が起きやすい傾向にあると言えます。
構造計画研究所では、リアルタイムに洪水予測が可能な「リアルタイム洪水予測システムRiverCast」を販売しています。どのくらい危険が迫っているか、いつ避難を開始すればよいか、事前対策を開始するタイミングなど、早期の意思決定を支援します。
また「外水氾濫」「内水氾濫」のうち、特に被害が甚大化しやすい傾向にある外水氾濫のシミュレーションを行う事が可能です。シミュレーション結果から、水深や流速の変化を捉える事が可能なため、避難時の歩行速度やルート選定の策定支援に効果的です。さらに、住民の避難行動をエージェントと呼ばれるモデルを用いる事で、避難シミュレーションを行う事もできます。
リアルタイム洪水予測システム「RiverCast」
最先端の数理工学を活用し、水位と雨量データのみからリアルタイムに河川水位を予測するシステムです。詳細は専用サイトを御覧ください。
外水氾濫シミュレーション
4. 最後に
今回は風水害に関する様々なコンサルティングサービスのご紹介をさせて頂きましたが、風水害以外にも地震をはじめとして自然災害は多数あります。構造計画研究所では、これまでのシミュレーション技術を元に様々なご提案をする事が可能であると自負しております。是非、お困りの事がございましたらお気軽にご連絡頂ければ幸いです。