Project PLATEAUユースケース「雪害対策支援ツール」

「雪害対策支援ツール」とは、国土交通省「Project PLATEAU」※1の2022年度ユースケースとして、株式会社ウエスコ・株式会社構造計画研究所共同提案体にて開発した、3D都市モデルの屋根形状や属性情報を活用した風雪・融雪シミュレーション※2、およびその結果を活用した建築物の積雪荷重に対する損壊及び落雪リスクの評価・可視化ツールです。

ツールの画面イメージ

ツールの画面イメージ


ツールを操作する様子

※1「Project PLATEAU」は、国土交通省が主導する日本全国の3D都市モデルの整備・オープンデータ化プロジェクトです。都市活動のプラットフォームデータとして3D都市モデルを整備し、様々な領域でユースケースを開発するとともに、誰もが自由に都市のデータを引き出せるようにすることで、オープン・イノベーションの創出を目指しています。

※2「Project PLATEAU」2022年度ユースケースの風雪・融雪シミュレーションは、株式会社ウエスコ様にて、オープンCFD(Computational Fluid Dynamics)ソフトウェア「OpenFOAM」を用いて実施されました。


【参考資料】

国土交通省 Project PLATEAU 雪害対策支援ツール ユースケース紹介HP
https://www.mlit.go.jp/plateau/use-case/uc22-027/

国土交通省 Project PLATEAU 雪害対策支援ツール 技術検証レポート
https://www.mlit.go.jp/plateau/file/libraries/doc/plateau_tech_doc_0019_ver01.pdf

「雪害対策支援ツール」は、3D都市モデルを活用した風雪・融雪シミュレーションを実施し、積雪荷重に対する建屋リスクの評価、地域情報を踏まえた雪下ろし優先度評価、道路除雪に関する評価を実施し、この結果を3次元で可視化します。

「雪害対策支援ツール」の構成

「雪害対策支援ツール」は、「風雪・融雪シミュレーション」「雪下ろし優先度評価」「道路除雪に関する評価」「建屋リスク評価」「可視化システム」から構成されます。
うち、構造計画研究所は「建屋リスク評価」「可視化システム」を担当しています。

「雪害対策支援ツール」全体図

「雪害対策支援ツール」全体図
(「建屋リスク評価」「可視化システム」を構造計画研究所が担当)


以下では、「積雪による建屋の損壊リスク評価」サービスについてご紹介します。

積雪による建屋の損壊リスク評価

近年、地域の少子高齢化等に伴い豪雪による災害が顕著化しており、改めて雪害対策が社会的課題として認知されています。空家の増加も相まって地域の雪害リスクが増す中、豪雪時の屋根雪の重みによる建屋損壊リスクの事前把握は、雪害対策の有効な一手となり得ます。

構造計画研究所は、国土交通省「Project PLATEAU」の2022年度ユースケース「雪害対策支援ツール」において、積雪荷重に対する建築物の損壊リスク評価を担当しました。ここでは、木造建屋を対象とした建屋損壊リスクの簡易評価手法についてご紹介します。

1.積雪による建屋の損壊リスク評価

積雪による建屋の損壊リスクには、階高・階数・柱スパン・柱の断面といった構造的な特徴が大きく影響します。戸建住宅等の木造建屋については、構造的な特徴のばらつきが小さいため、被害関数を用いた統計的な手法により建屋損壊リスクを判定することが可能です。統計的な手法を採用することにより、対象エリアの木造家屋損壊リスクを面的に評価することができます。

1.1 リスク評価の外力となる積雪荷重の算出

積雪による木造家屋損壊リスク評価を実施するにあたり、外力として建屋ごとに積雪荷重を付与します。積雪荷重の算出方法としては、積雪観測記録に基づき過去最大積雪重量を建屋ごとに付与する方法の他、対象エリアの地形・建築物を3次元モデル化し、風雪・融雪シミュレーションを実施する方法があります。風雪・融雪シミュレーションを実施することで、屋根ごとの積雪荷重を損壊リスク評価のインプットとして用いることができるため、積雪観測記録に基づく想定外力を用いる場合と比較して、精度の高いリスク評価を実施できます。

風雪・融雪シミュレーション結果の可視化イメージ

風雪・融雪シミュレーション結果の可視化イメージ

※「OpenFOAM」によるシミュレーション結果の可視化画面。「Project PLATEAU」ユースケースでは、株式会社ウエスコ様にてOpenFOAMによるシミュレーション、およびフリーの後処理視覚化エンジン「ParaView」を用いた結果の可視化を行いました。


1.2 被害関数の選定と被害評価

積雪による木造家屋損壊リスク評価に用いる被害関数を、既往研究等を参考に選定します。「Project PLATEAU」ユースケースでは、累積対数正規分布で定義されている「屋根雪深さによる小屋梁、垂木の被害関数(千葉・他, 2015 * )」を用いました。この関数は、北海道における98棟の在来軸組工法住宅の図面より、耐雪性能に関わる小屋梁および垂木を抽出し、それぞれが損傷する際の屋根上積雪深について、材料強度のばらつきを考慮して算定しています。ユースケースにおける実証では、上記論文に示された被害関数のうち、最も建屋損壊確率が高く評価されることが想定される、「屋根雪深さと垂木-雪庇30cmの損傷確率」の被害率曲線(下図赤枠)を採用しました。

「Project PLATEAU」ユースケースにおいて採用した被害関数

「Project PLATEAU」ユースケースにおいて採用した被害関数


*1: 千葉隆弘・堤拓哉・高橋徹・苫米地司, 2015, 北海道における在来軸組工法住宅の耐雪性能に関する研究-小屋梁および垂木の損傷リスクについて-, 北海道科学大学研究紀要, 第39号.

被害関数の選定後、対象地域に含まれる木造建屋の損壊リスク評価を統計的に実施します。


1.3 評価結果の出力と可視化

リスク評価結果を出力し、可視化します。WebGISなどのプラットフォーム上で結果を共有できるようにしておくことで、雪害対策の検討や、関係者間の合意形成がよりスムーズになります。さらに、3次元で可視化を行うことで、住民に対する意識啓発等、リスク評価結果の活用の幅が拡がります。
ここでは、GISフリーソフトウェア「QGIS」による2次元可視化、およびゲーム開発プラットフォーム「Unity」を用いた3次元可視化の例をご紹介します。

積雪による垂木の被害確率_QGIS上の可視化例

積雪による垂木の被害確率_QGIS上の可視化例

積雪による垂木の被害確率_Unity上の可視化例(雪表示なし)

積雪による垂木の被害確率_Unity上の可視化例(雪表示なし)


2.積雪による非住宅建屋の損壊リスク評価

非住宅建屋は構造的な特徴が建屋によって大きく異なるため、構造計算による詳細検討により、積雪に伴う損壊リスクを評価する必要があります。膨大な件数の非住宅建屋すべてを対象に詳細評価を行うことは不可能であるため、評価対象とする建屋を選定し、評価を実施します。

2.1 非住宅建屋の評価(構造計算による建屋の耐雪性能評価)フロー

非住宅建屋を対象とした積雪リスク評価の手順は以下の通りです。

  • 評価対象とする非住宅建屋の設計図書より、建屋の構造解析モデルを作成
  • 作成した構造解析モデルに、外力となる積雪荷重(1.1参照)を入力し、静的応力解析を実施
  • 主要構造部材等に対して許容応力度確認を行い、部材損傷の恐れの有無を判断
  • 部材損傷による建物の継続使用や修繕に係るリスクを試算し、対策要否の閾値を設定
  • 構造計算の結果確認された建屋被害リスクと、対策要否の閾値を重ね合わせ、「積雪シナリオ」に対する事前対策が必要と判断される場合は、補強案を検討

手順をフロー化した下図も参照ください。

非住宅建屋の評価フロー

非住宅建屋の評価フロー

2.2 非住宅建屋の評価(構造計算による建屋の耐雪性能評価)_解析イメージ

非住宅建屋の評価では、建物性状の調査・復元、応力解析、補強設計事例の提示を行います。各工程において作成する構造モデル等のイメージをご紹介します。

構造計算による建屋の耐雪性能評価イメージ

構造計算による建屋の耐雪性能評価イメージ


構造計画研究所では、創業以来の実績と経験に裏打ちされた構造計算のノウハウを活用し、お客様の課題に応じて、適切な雪害対策案・補強案をご提案いたします。

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