建築・まちづくり 人流シミュレーションの活用事例

施工後に大幅な変更を加えることが難しい建築や都市計画・まちづくりにおいて、安全性や快適性を担保するためには事前の想定が重要です。建築予定地一帯や施設内を行き交う人々の動き・振る舞いなどをシステム上で模擬する人流シミュレーションは、混雑や避難など施工後に浮かぶ課題を事前に把握するための有効な想定手段となります。

この記事では、建築や都市計画・まちづくりに関連する人流シミュレーションの活用事例を紹介します。


建築・まちづくり 人流シミュレーションの活用事例

人流シミュレーションとは

人流シミュレーションとは、既存のデータなどを基に、現実世界の人間の行動パターン(移動速度、目的地選択、混雑回避、施設への立ち寄りなど)をモデル化する手法です。デジタル空間に多数の「エージェント」(仮想の人間)を配置。エージェントはそれぞれが独自の目的と意思を持ち、周辺環境や他のエージェントの動きに影響を受けながら行動します。

周囲の状況をエージェントが認識して行動する

周囲の状況をエージェントが認識して行動する


従来、大規模な建築や都市計画では、経験則などに基づいて混雑や避難の安全性を評価していました。しかし、人流シミュレーションを導入することで、以下の点を定量的、かつ視覚的に把握することが可能になります。

混雑の予測とボトルネックの特定

特定の時間帯やイベント時に、どこで、どれくらいの混雑が発生するかを予測し、問題となる通路幅や出入口などを特定できます。

安全性・利便性の向上

地震や火災などの災害時の避難時間を検証し、安全な設計を導き出します。また、エレベーターやエスカレーターの待ち時間、施設内の回遊性などを評価し、利用者の利便性向上に繋げます。

多角的な検証と合意形成

複数の設計案や運用計画(例:イベント時の交通規制)をシミュレーション上で比較検討し、その結果を関係者と共有することで、迅速かつ納得度の高い合意形成を促します。


津波避難ビル配置計画の妥当性などを検証

構造計画研究所では、マルチ・エージェント・シミュレーション(MAS)を用いて、緊急時に避難する「津波避難ビル」の配置計画の妥当性などをデジタル空間上で検証しています。

本事例は、新設される大規模施設の一部を津波避難ビルとして活用。近隣住民には避難場所の確保、事業者には地域防災への貢献など、双方にメリットがある仕組みです。

シミュレーションでは、施設の利用者やスタッフ、さらには周辺住民や観光客を含めた1,000人以上の避難行動をモデル化しました。また、昼夜や避難ビルの有無など各シナリオを検討。高齢化率が高い地域特性を考慮し、歩行困難者の歩行速度を通常速度の半分に設定するなど、個人の特性に応じた緻密な条件を設定しています。


津波避難シミュレーション


シナリオごとの避難時間と津波到着時間のイメージ

シナリオごとの避難時間と津波到着時間のイメージ


検証を通じて、以下の分析・検証が可能となります。

時間的分析

全体の避難時間から、「津波到達前までに避難を完了できるか」「津波警報発令からどれくらい猶予があるか」などを検証する。

空間的分析

避難の様相から、「どこが混雑するか」「どれくらい混雑するか」など混雑箇所を検証する。

上記の内容を分析することで、津波発生時に施設利用者に避難を呼びかける誘導員の配置についても検討が可能となります。また、津波到達時間などが異なる各シナリオのシミュレーション結果の比較から、「これまで津波到達までに避難完了できなかったが、津波避難ビルを新設したことで完了できるようになった」といった津波避難ビルの新設の効果を検証することにもつながります。


建築物と歩行者行動のかけ合わせ

東京都の西新宿エリアでは、国土交通省の都市デジタルツイン実現プロジェクト「Project PLATEAU」を活用し、大成建設様と共同で建築物と歩行者行動をかけ合わせた人流シミュレーションに取り組み、可視化ツールを構築しました。

「Project PLATEAU」で整備されたモデルをベースに、西新宿エリアで活動するエリアマネジメント団体が整備した3D都市モデルを基盤とし、構造計画研究所が運用するMASプラットフォームである「artisoc Cloud」を用いて人流シミュレーションを行いました。
さらに、人流シミュレーションによる施策検証結果をより分かりやすく表現するため、ゲームエンジンを活用し3D都市モデル上で人が動く様子を再現しました。

3D都市モデル上で歩行者の行動を可視化した様子

3D都市モデル上で歩行者の行動を可視化した様子


従来モデルより高い再現性

西新宿エリアは大規模な地下通路やペデストリアンデッキ、高層ビルなど、立体的かつ複雑な都市構造が特徴ですが、このシミュレーションでは、平常時・イベント開催時に歩行者が三次元的に移動する際の「心理的行動アルゴリズム」を反映。西新宿エリアでは幅員が広く上空が開けている道路や新宿駅直結の地下通路を通行している人が多い実態を踏まえ、通路の特性として、幅員が広い空間や上空が開けている空間を歩行者が好んで選択する経路選択モデルを作成しています。これらにより、従来の最短経路モデルよりも高い、実データと70%以上の一致という再現性を実現しました。

西新宿エリアでは、街の賑わいを生み出すための社会実験が検討されていますが、実施にはコストがかかるだけでなく、多くの関係者との調整や合意形成が必要です。本シミュレーションでは、3D都市モデル上でさまざまな施策の効果検証が可能になり、社会実験の一部を代替するツールとして、コストの削減および効果的な企画立案、合意形成の効率化が期待されています。

また、都市計画・まちづくり分野においては、歩行回遊性や賑わい創出のための施策検討、交通施策の検討や防災分野での活用など、幅広い目的での人流シミュレーションが可能です。


安全と成果に直結

建築やまちづくりには、一度形にすると容易には修正が効かない「一発勝負」の側面があります。だからこそ、人流シミュレーションによって「未来を可視化」することは、プロジェクトの失敗を防ぎ、関わるすべての人々の安全や成果に直結します。

構造計画研究所は、複雑な都市課題に対する最適解を導き出すパートナーでありたいと考えています。避難計画の策定、賑わいのある空間デザイン、さらには合意形成の効率化など、人流シミュレーションの導入に関するご相談があれば、お気軽にお問い合わせください。

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