最適化技術を活用した建設プロセスの業務効率化

人手不足や気候変動への対策を背景として、建設業界でも業務効率化・生産性向上の必要性が年々高まっています。
構造計画研究所では、最適化手法の1つである「オペレーションズ・リサーチ(OR)」を活用して、建設プロセスの業務効率化・生産性向上を支援しています。

オペレーションズ・リサーチとは

「オペレーション」は作戦、「リサーチ」は検証という意味の通り、互いに干渉しあう複数の作戦が、最適な方法で効率的に実行可能かどうかを検証するという目的で、当初は軍事研究として産まれました。
現在では、複雑な状況下での意思決定を支援するための技術として、社会のさまざまな場面で活用されています。たとえば、電車を利用して移動する際の乗り換え経路の案内や、電力の需要に応じた発電所における運転計画の策定、効率的な人員リソースの活用・従業員の希望・労働法規の3つを両立させた勤務シフトの作成など、さまざまな場面で活用されています。

最適化技術を活用した建設プロセスの業務効率化|サービス概要

構造計画研究所では、50年にわたるオペレーションズ・リサーチの分野で培ってきた数理最適化の実業務への適用に関する知見と、建設分野の業務知識をもとに、建設プロセスの業務効率化、生産性向上におけるさまざまな課題の解決策をご提案しています。

建設プロセスにおける課題の例としては、以下のようなものが挙げられます。

建設プロセス

設計
  • 建物の大型化・複雑化により設計業務の負荷が増しているため、配置ルールが決まっている設備機器・配線・配管の配置を省力化したい
生産
  • 一品物が多いため、抜け・漏れのない生産計画を作らなければならないが、点数が多く人手では大変
物流
  • 長尺、大重量の資材が多く積み付けが難しい
  • 資材置き場の空きスペースとの兼ね合いが複雑
施工
  • 各現場の進捗状況に応じた職人や設備の割り当てが難しい
  • 天候による進捗遅れに応じて計画をこまめに修正する必要があり大変
保守・管理
  • 資格を持った点検員の人数が限られており、巡回のスケジュール組みが難しい

こうした建設プロセスにおける課題を最適化手法オペレーションズ・リサーチを活用して解決した事例をご紹介します。

事例1|建設現場における工程計画・人員配置計画の策定


工程・人員配置計画における課題

建設現場では、必要な工程と限られた人員リソースに対して、工程間の関連性や工程の作業に必要な能力、各人員の希望などの条件を満たし、計画策定を行うことが求められます。また、計画の策定は一度行えば終わりではなく、工期の遅れや変更に伴ってその都度見直す必要があり、計画策定業務は担当者の大きな負荷になっています。また、働き方改革関連法のうちペンディングになっていた建設業の労働時間の上限規制が2024年から施行されるため、これまで以上に限られた人員リソースをうまく配置することが必要になってきます。


解決方法:「最適工程・人員配置計画」の自動作成システム

構造計画研究所ではこれらの課題に対して、OR技術を活用した独自の「最適工程・人員配置計算アルゴリズム」を用いて、複雑な条件を守りながら日々の工程と必要人員を適切に配置し、工程・人員配置計画を自動作成するシステムを開発しました。これにより、計画担当者の負荷軽減、計画策定業務における属人性の低減に貢献しました。

OR技術を活用した工程・人員配置計画 自動作成システム(画面イメージ1)
OR技術を活用した工程・人員配置計画 自動作成システム(画面イメージ2)

OR技術を活用した工程・人員配置計画 自動作成システム(画面イメージ)

事例2|企画段階における間取り検討支援


間取り検討における課題

ビルやマンション、住宅などを建てる際の初期段階では、フロアの区画割や各住戸の間取りが検討される工程があります。ここでは、「施主から要望を伺う」⇒「一度持ち帰って間取り案を検討・作成」⇒「再度その案に要望をもらい再検討」⇒・・・といった形で、要望を受け取っての検討・再作成のキャッチボールが何回も行われます。営業担当者では、その場で要望に対する実現可能性の判断が難しく、一度持ち帰って設計書を手直ししたうえで、設計者の判断を仰ぐ必要があります。この工程の長期化が各社の悩みの種となっています。


解決方法:間取り検討支援ソリューション

構造計画研究所では、OR技術を活用した「間取り検討支援ソリューション」を提供し、これらの課題の解決に貢献しています。このソリューションは、「部屋の大まかな位置」「部屋の必要面積」「部屋間の関係」などの情報をインプットすることで、条件を満たした間取り案を複数アウトプットします。打合せで施主から伺った要望をその場で条件に反映して間取り案を検討することで円滑にコミュニケーションを進めることができます。

これにより、本格的な設計へ移るまでのリードタイムを短縮することができ、工期の短縮、設計者の負荷軽減に寄与することができます。さらに副次的な効果として、迅速な検討による競争力の強化、余裕のできた時間を詳細設計に充てることでプラン品質の向上なども期待できます。

間取り検討支援ソリューション(イメージ)

間取り検討支援ソリューション(イメージ)

事例3|大規模工事における土量配分計画の最適化

大規模工事では、複数の現場間で切土(斜面を削って土を出す)と盛土(土を盛って斜面を平にする)が行われます。この切土と盛土のマッチングを上手く調整し、可能な限り無駄な移動を抑える方法を考えることを土量配分計画(土配計画)と呼びます。本事例では、土配計画にORの技術を適用することで、輸送コストが最小になる土配計画を自動立案できるツールを開発しました。

土配計画における課題


土配計画策定に掛かる時間および労力

土配計画の検討には現場ごとの工事時期、切土・盛土の量、利用可能なトラックの台数、仮置き場の場所・容量等のさまざまな事項を考慮する必要があります。さらには、工事の進捗にともなって仮置場の場所が移動したり、道路が通行可能になることで移動のコストが大きく変化することもあるなど、時間変化による環境変化も考慮する必要があります。そのため、工事の規模が大規模になるほど土配計算に必要な計算の量と時間は指数関数的に増加してしまい、大規模な現場では、1回の土配計画に数日~数週間という工数を要することもあります。

土砂運搬事業の様々なリスクの埋没

土工事で発生する多量の土砂処理には事業遂行上のリスクがあります。リスクの具体例として土砂の需給時期のずれによる仮置き場の混雑、運搬距離の遠隔化による道路状況の複雑化、大型車運搬による騒音振動などの社会問題や受入地周辺住民からの苦情などさまざまなものが考えられます。そのほか、工事が遅延した場合などは計画全体が破綻し、さまざまな想定外の問題が生じるリスクもあります。そのため、リスクを計画時に把握することは非常に重要な作業となります。しかし、計画策定に多大な時間と労働コストを要するため、リスク要因の調査に余裕を持ってのぞめず、結果としてリスク分析が不十分になるという課題があります。


解決方法:(輸送コスト最小の)土配計画自動作成ツールの開発

複雑な条件を伴う運搬計画の作成に対して、OR技術を適用することにより最適な土砂運搬計画を求めるツールを開発しました。本ツールでは、どの時期にどこからどこへ土砂を運搬した方が良いか、各道路の運搬車の通行台数は適切かなどその他さまざまな条件を考慮します。本ツールを用いることで、計算条件にて指定した各現場の切土・盛土量を満足し、輸送コストを削減した効率的な土配計画を短時間で提案することができます。また、担当者がツールにより得られた土配計画を確認し、事業遂行上のリスクがあれば計算条件を見直し再計算することで、リスクを加味した土配計画を作成することができるようになります。


土量配分計画の最適化(イメージ)

最適な土砂運搬計画の自動作成ツール(イメージ)


成果:土配計画自動作成ツールの効果


土配計画の生産性・品質の向上

本ツールを用いることで土配計画策定に掛かる時間と労力を大幅に削減することができました。また、最適化技術を用いるため、大規模な現場に対しては特に高い省力化と輸送コスト削減効果を発揮することがわかりました。

土工の実態把握と事業遂行上のリスク要因の抽出

土配計画を短時間で自動作成できるため、複数シナリオを想定した幅広い検討も可能となり、土砂処理に伴うリスクの所在の早期発見と対応策の検討が容易になりました。また、工事の遅れなどにより計画がずれた際の計画見直しも簡単にできるようになり、工事全体のムリ・ムダの削減、そしてリスクの低減に貢献しました。

事例4|カーボンニュートラル化に向けた再エネ・蓄エネ設備の導入量検討


再エネ・畜エネ設備導入における課題

近年、建築物や街区の設計において、CO2排出量削減を考慮するニーズが高まっています。一方で、排出量削減に寄与する設備(ソーラーパネル・蓄電池・貯湯槽・省エネ空調システムなど)はまだまだ高価なものが多いのが現状です。
導入する設備やスペックを決めるためには、導入コストや保守コストに加え、設備の特徴や構造上の制約を考慮する必要があり、適切な組み合わせを決めるのは難易度の高い検討となっています。


解決方法:(コスト最小となる)再エネ・畜エネ設備 導入検討ツールの開発

構造計画研究所では、日々の運用を模擬するエネルギーマネジメントシステム(EMS)シミュレーション長期保守計画シミュレーションの2つを組み合わせた検討ツールを開発し、当面の設備費・運用費が最小となる設備容量の算出と、その後の保守・修繕タイミングの検討を簡単に行えるようにしました。
この検討ツールを活用することで、検討1件当たりの作業量を大幅に削減でき、プラン変更が生じてもすぐ再検討できるようになりました。将来想定やプラン変更が生じやすい初期検討の段階から設備検討を平行して進めることができ、全体的な設計期間の短縮に繋がりました。


エネルギーマネジメントシステム(EMS)シミュレーション

EMSシミュレーションではまず、電力や熱の需要、検討対象となる設備のスペック、中央/分散熱源の選択、熱源・配管・需要等のネットワーク関係などを入力データとして準備します。
入力データに基づいてシミュレーションを実施することで、設備導入費と運用費の合計が最小となる設備構成が算出されます。シミュレーションの内部では、電力や熱の需給一致や、熱源・配管・需要などのネットワーク関係を考慮できます。シミュレーションの結果からは、各設備の利用率などを算出できます。
事前にシミュレーションで検討しておくことにより、「高価な設備を導入したが結局あまり使われなかった」といった事態を予防することができます。


エネルギーマネジメントシステム(EMS)シミュレーション(イメージ)

エネルギーマネジメントシステム(EMS)シミュレーション(イメージ)


長期保守計画シミュレーション

長期保守計画シミュレーションでは、EMSシミュレーションで決めた設備構成に基づいて数十年のシミュレーションを行い、大規模修繕や設備更新のタイミングを予測します。
シミュレーションの際には、機能があるレベルまで低下したら修繕、耐用年数を迎えたらリプレイス、などの方針を設定します。また、各年のCO2排出量はどの程度か、20XX以降の設備リプレイスでは新型設備に置き換えるようにするとどうなるか、など様々なシナリオで費用と効果を比較することができます。これにより、施主やオーナーの要望に合わせて、適切なプランを定量的に提示することが可能となります。


長期保守計画シミュレーション(イメージ)

長期保守計画シミュレーション(イメージ)

事例5|スマートなエネルギー機器運用システム

近年、気候変動対策や災害時のエネルギー源確保の重要性がますます高まり、大規模な事業所や商業施設へのソーラーパネル・蓄電池・蓄熱漕・コジェネレーションシステム・自家発電システムなどの導入が進んでいます。
このような設備を有効に活用するには、翌日以降の日射量予測や電力・エネルギー需要予測を考慮して、日々の設備運用計画を作成・更新していくことが重要です。
従来、大規模施設のエネルギー設備運用は資格を持ったエネルギー管理者が担ってきましたが、蓄電池などの複雑な運用を伴う設備や予測項目の増加のために計画作成業務が高度化し、効率的な運用が難しくなっています。特に新築物件では、需要見積もりに活用できる過去データの蓄積がないため、エネルギー管理者の経験と技量に頼るところが大きくなってしまいます。


最適な設備稼動計画を算出するエネルギーマネジメントシステム (EMS) の構築

構造計画研究所では、エネルギー需要を賄いながら、自設備を最大限活用し、電力会社からの購入電力量をできるだけ抑えた最適な設備稼動計画を算出するエネルギーマネジメントシステム (EMS) を構築しました。EMSは、

  • 気象予測データの取得
  • 翌日のエネルギー・電力需要や太陽光発電量の予測
  • 各設備の運転計画案の作成

を自動で行います。
新築物件の場合は、既存の類似施設のエネルギー需要データから季節・曜日・時刻・フロア用途別のエネルギー消費傾向を抽出し、対象物件の予測に活用します。エネルギー管理者は、自動作成された予測や計画案を確認し、イベント時など必要に応じて修正を加えます。各物件に導入されている設備の細かなスペックもEMSに組み込み、新築の実物件への導入・運用を実現しています。


エネルギーマネジメントシステム(EMS)を活用した運用(イメージ)

エネルギーマネジメントシステム(EMS)を活用した運用(イメージ)

その他の最適化技術 活用事例

ご紹介した事例のほかにも、資材等の積み付け・輸送計画や災害対策など、さまざまな課題の解決にORが活用されています。一例を以下にご紹介します。

輸送計画

  • トラック積み付けの最適化
  • 物流拠点新設のための立地評価およびエリア割り当て評価
  • コンテナ輸送最適化システムの構築

トラック積み付け最適化

トラック積み付け最適化

災害対策

  • 劇場のリニューアル工事に向けた避難計画を含めた安全性評価の検証
  • 災害時における携帯電話通信制御の最適化

劇場のリニューアル工事に向けた避難計画を含めた安全性評価の検証(イメージ)

劇場のリニューアル工事に向けた避難計画を含めた安全性評価の検証(イメージ)

運行計画

  • 利用者・利用時間に適したバス運行サービスの検証支援

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