粒子法による流体シミュレーション
近年、土木・建築業界において、設計の高度化や安全性の検証、施工品質の確保がますます重要になっています。特に、水やコンクリート、土砂といった「流体」が関わる現象は、予測が難しく、従来の解析手法や実験だけでは対応しきれないケースも少なくありません。
こうした複雑な流体現象をシミュレーションで解明する「粒子法流体解析」と、その専門的なコンサルティングサービスについて、具体的な事例を交えてご紹介します。
粒子法とは
粒子法は従来法(格子法)とは異なり、流体を粒子の集まりとして表現します。
従来法では評価が難しい界面の大変形や、液滴の離合を伴う複雑な自由表面流れのシミュレーションを容易かつ詳細に行うことができます。
粒子法と従来法(格子法)の比較
港湾・海洋関連の事例
①浮体式洋上風力発電設備
次世代エネルギーとして期待される浮体式洋上風力発電は、その名のとおり風車を海に「浮かべる」必要があります。したがって、設計段階で巨大な構造物が波や風の中で安定して浮き続けるか(安定性)を検証しなくてはなりません。
動揺、安定性の検討
アプローチ:
粒子法の最大の強みの一つが「連成解析」です。海水(流体)、浮体(剛体)、そして風車本体や係留ロープ(構造体)のすべてを一体としてモデル化し、相互に影響を与え合う様子を解析します。
- 浮力の計算と安定性の確認(傾いたときに復原するか)
- 波による外力を受けた際の挙動(波浪動揺検討)
成果:
浮体の挙動および、浮体に生じる流体圧力、応力分布を評価します。複雑な海洋条件下での構造物の安全性を設計段階で検証し、プロジェクトの実現可能性を高めます。
浮体式洋上風力発電設備の動揺、安定性の検討
設置時・施工時の検討
設置時・施工時においては、運転時とは異なる形状・組み方で波浪にさらされます。 例えば、浮体部分を港から設置場所まで曳航(えいこう)する際や、現地で風車タワーを組み立てる途中など、一時的に不安定な状態が発生する可能性があります。
アプローチ:
これらの一時的な状態を粒子法でシミュレーションし、安全に施工できる波の条件(施工可能波高)を特定したり、最適な施工手順を検討したりします。
- 曳航中の浮体の安定性評価
- 組み立て中の(まだ係留されていない)状態での波による揺動、傾き予測
成果:
運転時はもちろん、リスクが伴う施工段階を含めたプロジェクト全体の安全性をシミュレーションで検証し、実現可能性を高めます。
②消波検討
台風や高波の際、防波堤や護岸を波が乗り越える「越波(えっぱ)」は、市街地の浸水被害に直結します。消波ブロックを設置する際、「どのように、何段積めば越波を効果的に防げるか」を定量的に評価する必要があります。
消波ブロック検討
アプローチ:
実際の波浪条件をインプットし、波が消波ブロックに衝突し、砕け散る様子(波しぶき)を詳細にシミュレーションします。ブロックの配置や段数を変えた複数のケースを比較検討します。
成果:
消波ブロックの最適な段数や配置を決定するための設計資料として活用されます。これにより、コストと安全性のバランスが取れた護岸設計が可能になります。
消波ブロックの最適な段数や配置の検討
スロッシングの事例
地震時に液体が大きく揺れる「スロッシング」は、様々な施設で設計上の重要な課題となります。粒子法は、こうした液体の激しい動きの解析を得意とします。
①化学プラント槽スロッシング
化学プラントや製造ラインでは、メッキ液など、様々な液体が水槽(槽)に貯蔵されています。地震発生時、槽内の液体がスロッシングにより流出し、有毒ガスの発生や生産ラインの停止といった深刻な問題を引き起こす可能性があります。
アプローチ:
想定される地震波を入力し、液体がどの程度揺動し、槽の外へ流出するか(流出有無)を事前にシミュレーションで評価します。
成果:
流出リスクを定量化することで、スロッシングの生じにくい槽形状の検討や、防液堤の設計に役立ちます。これにより、安全かつ安定した生産体制の維持に貢献します。
化学プラント槽のスロッシング
②高層階プールスロッシング
近年増加している高層タワーマンションやホテルの高層階(免震層の上など)に設置されたプールも長周期地震動によってスロッシングを起こします。プールから溢れた水(溢水)が下の階への漏水やエレベーターシャフトへの流入を引き起こす可能性があります。
アプローチ:
建物の揺れ(フロアレスポンス)をモデルに入力し、プール内の水がどのように揺れ、どれくらいの量が、どの方向に溢れ出すかをシミュレーションします。
成果:
溢水量を定量的に予測することで、必要なフチの高さ(パラペット)の設計や、排水設備の能力検討に活用され、建物内部の浸水リスクを評価します。
高層階プールのスロッシング
コンクリートの事例
高密度に配筋された型枠内部に生コンクリートを打設する際には、コンクリートが隅々まで行き渡るか(充填性)、空気の巻き込みや材料分離が起きないか、といった品質管理が重要です。
コンクリートの流動性
アプローチ:
生コンクリートをスランプ試験の結果に応じて流体としてモデル化します。打設の速度や投入口の位置を変えながら、型枠内部での流れ方をシミュレーションします。
成果:
充填不足が予測される箇所の特定や、最適な打設計画(打設順序や速度)の立案に貢献し、施工品質の確保と手戻りの防止に役立ちます。
コンクリート流動
まとめ
複雑な現象に「解」を出すために
粒子法は、複雑な流体現象をシミュレーションで解明する予測手法です。土木・建築分野においても、従来の解析手法や実験では評価が難しいケースで粒子法が活用されています。
ここでご紹介した事例以外にも、土石流のシミュレーション、建築物の雨水検討、構造物の津波被害予測など、粒子法解析の活用範囲は広がり続けています。
粒子法コンサルティングサービス
構造計画研究所では、実験が難しい、あるいは従来の計算手法では解けなかった土木・建築特有の複雑な流体問題に対し、粒子法コンサルティングサービスを提供しています。お気軽にお問い合わせください。
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