プラント設備等の重要構造物の地震対策

1. はじめに

近年、大きな被害を伴う地震や台風等による風水害が多く発生しています。各企業が事業継続のために災害対策を進める必要性が高まることはもちろん、災害対策を進めている事自体が対外的な企業価値に繋がると考えられます。特にエネルギーや運輸等の社会インフラ分野では、業界をあげて災害対策を進めています。

これらに関連する最近の大きな動きとしては、経済産業省による高圧ガス設備等に係る耐震告示の改正が挙げられます(2019年9月より施行)。
本改正のポイントは以下のとおりです。

  • 耐震設計構造物に求められる耐震性能及び評価の性能規定化
  • 性能規定化に伴うサイトスペシフィック地震動の導入
  • 大規模地震及び津波に係る対策の危害予防規定への追加

※経緯や対象範囲等は高圧ガス保安協会様HPに整理されています。

特に最大のポイントは「性能規定化」と言えます。達成すべき仕様(構造物であれば材料、工法、寸法、形状等)を定め、満足させる規定を「仕様規定」と言いますが、「性能規定」とは、達成すべき性能を規定し、実現方法は製造者等に委ねることを言います。性能規定化の主たる目的は、最新の評価方法に基づく耐震設計を促す事ですが、大きな方針の転換とも言え、今後本格的に設計実務に導入された場合は、これまで馴染みの薄い検討が求められて参ります。

構造計画研究所では、既に性能規定やサイトスペシフィック地震動による耐震検討が行われている、原子力、土木、建築業界における長年の経験・ノウハウを蓄積しており、各種計算を行うだけでなく、なぜこうするのか?というところから豊富な経験に基づいたコンサルティングを行っています。

本コラムでは、プラント設備をはじめ重要構造物における地震対策について、どのような検討が可能なのかをご紹介したいと思います(図1)。

図1 本コラムでご紹介する3つの話題

2. ソリューションのご紹介

2.1 地震動の評価(サイトスペシフィック地震動)

従来の「仕様規定」の考え方の中では、構造物の設置場所によらず一定の強さの地震動レベルが定められており、それに基づいて設計を行っていました。ただ、近年は地震観測網の整備等により、従来の地震動レベルを大きく上回る地震動が観測されるようになりました。特に活断層近傍や堆積平野の上では特徴的な地震動が生じる事が分かっています。

サイトスペシフィック地震動」とは、特定地点の周辺状況に合わせて個別に作成する地震動を指します。具体的には構造物の設置場所周辺の活断層等の分布状況や活動履歴、地盤の構造などに基づいて、その地点で予測される地震動を設定します。

地震時の地表の揺れは、図2に示す3つの特性に分けて理解する事が出来ます。震源特性、伝搬特性、サイト特性です。言い換えると、これらの特性を各種情報に基づき設定する事で地震動を評価する事が出来ます(図3)。

図2 地表の揺れを構成する3つの要素

図3 地震動の伝わり方を考慮した評価

また、地震動の評価方法も様々なものがあります(表1)。立地条件や構造物にとって重要な周期などを考慮し、適切な地震動予測手法を使い分ける事が重要です。今後、サイトスペシフィック地震動に基づく設計や耐震検討が行われる事で、安全かつ合理的な耐震設計に繋がると考えています。また同時に、なぜこの地震を対象にするのか?なぜこの手法で評価するのか?予測結果は妥当なのか?などの根拠も重要になります。

表1 様々な地震動予測手法

2.2 構造物の評価(地盤-構造物連成解析)

構造物の評価も性能規定化されることで「多様な評価方法」を用いる事が可能になります。地震動レベルや評価する対象構造物、要求性能など、目的によって適切な解析モデルや解析手法を選択する必要があります。
図4は構造物の解析手法を大別したものになります。これにモデル化方法や評価方針のパターンを加えると、上述した「多様な評価方法」という意味が分かると思います。

図4 構造物の解析手法の分類

また、構造物や基礎の評価は入力される地震動と合わせて考えていく必要があります。サイトスペシフィック地震動を用いる場合、揺れの特徴も多様なものになる可能性が高く、地点によっては従来よりも大きな地震動を想定する事もあると考えられます。
そのような場合は動的解析が有効です。従来中心となっていた静的解析では考慮されなかった共振現象や構造物、地盤の非線形性、塑性化を考慮する事が出来ます。また、地盤と構造物を一緒にモデル化し相互作用を考慮した解析を行う方法もございます(図5)。

図5 地盤-構造物連成解析モデルの例

このようにより現実的なモデル化を行い、地震動による建物の挙動を把握することで以下のメリットが見込め、安全性・経済性に配慮した設計を行う事が出来ます。

  • 制震補強により補強箇所を低減した、現実的な施工が可能になる
  • 解析と設計費用は増えるがそれ以上に補強費減少のメリットが大きい
  • 詳細に解析・検討を行うことで信頼性の高い構造安全性を確保できる
参考:動的解析による火力発電所タービン建屋の補強検討の例 高圧ガス設備ではありませんが、動的解析が主流となりつつある建築分野での例として、火力発電所タービン建屋の動的解析による補強検討を図6に示します。従来の耐震診断による補強例(図6(1))では、ほぼすべての梁端部の施工が必要となり、設備機器配管等が邪魔をして現実的には施工不可能な案となっています。他方、より現実的な動的解析モデルによる検討(図6(2))では、アンボンドブレースを採用した制震補強のアプローチを取る事で、新設ブレースの設置箇所も大幅に減り、施工性が向上した現実的な補強案になっています。

(1)従来耐震診断による補強例(X方向)
※ほぼすべての梁端部施工が必要。設備機器配管等が邪魔をして、現実的には不可能

(2)動的解析による制震補強例(X方向)
図6 従来耐震診断による補強案と動的解析による補強案の違い

2.3 津波対策(被害予測、避難)

2011年東北地方太平洋沖地震では一部の高圧ガス設備で火災・爆発等が発生したほか、津波浸水区域では高圧ガス設備や容器の損壊、流出等が発生しました。今回の改正では、津波対策の危害予防規定への追加も大きなポイントです。

具体的には津波浸水想定区域内にある事業所は、津波警報発令時の警報伝達や作業・設備の停止、教育・訓練などの事前対策を求められます。更に想定浸水深が1mを超える場合は充填容器等の流出防止阻止、回収方針の策定、3mを超える場合は製造・貯蔵設備の被害想定と地域を管轄する自治体に対する情報提供が求められます。

自治体が公表するハザードマップや被害想定を参考にする事も可能ですが、これらは最大浸水深や浸水継続時間などの情報に限られています。事業所内設備の被害想定や対策立案を目的とした場合には、津波がどのような勢いでやってくるのか、事業所敷地内のどこが危険なのかなどの別途情報が必要です。

構造計画研究所では津波の伝搬シミュレーションを行っています(図7)。シミュレーションを行う事で、事業所に津波が到達し敷地内が浸水していく状況を把握出来ますし、流速が求まるので構造物へ与える影響をより合理的に評価する事が可能です。また、マルチエージェントシミュレーションという技術を用いる事で、従業員の避難行動を模擬した避難シミュレーションも可能です(図8)。津波の伝搬過程とあわせて評価する事で、避難開始時間や避難場所、避難経路の検討が可能です。いずれも動画(アニメーション)を作成可能で、視覚的に状況を確認し、対策の検討が可能です。

図7 津波伝搬・遡上シミュレーション例
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図8 津波避難シミュレーション例
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3 最後に

構造計画研究所では地震、津波、高潮等を始めとする自然現象そのもののシミュレーションと、それが地盤や構造物に与える影響の両方を取り扱っています。長年の業務経験により多様な解析手法とそれらの活用方法のノウハウを有しており、目的や予算に応じた解析手法の選択、根拠立て、結果の解釈などの一連をコンサルティングサービスとして提供しています。全ての課題に技術的に高度な解析が必要とも限りませんし、簡易な検討からスモールスタートする事も可能です。まずはお気軽にお問合せ頂ければと思います。

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