カーボンニュートラルと屋内空調解析
完全クラウドCAE "SimScale" 最新動向・活用事例紹介セミナー
建築物の風環境・風荷重解析、産業機械の流体解析、電子機器の熱解析など、様々なシーンで活用されている最先端のクラウドCAEプラットフォームSimScale の最新動向と活用事例をご紹介します。
完全クラウドCAE "SimScale" 最新動向・活用事例紹介セミナーカーボンニュートラルと屋内空調解析
気候変動問題に対する枠組みであるパリ協定に基づき、日本は2050 年カーボンニュートラルの実現を表明しています。
日本の二酸化炭素排出量の内訳では、建築分野(図1 のオフィス・商業施設等および住まい)が32%と全体の1/3 を占めています。これは産業部門に次ぐ2 番目であり、電動化でカーボンニュートラルを目指す過渡期となっている自動車などの輸送部門よりも多いです。したがって、日本でのカーボンニュートラルの実現に向けて、建築分野の果たすべき役割は重要であるといえるでしょう。
建築分野でのカーボンニュートラル実現のための取り組み
カーボンニュートラル実現のために建築分野では
- ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)
- ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)
の普及が進められています。
これは、省エネ(建築物で消費するエネルギーを減らす)と創エネ(太陽光発電などにより建築物で生産するエネルギーを増やす)を組み合わせて、実質的に消費エネルギーをゼロにする建築物を指します。
図2 に建築物内の二酸化炭素排出量の内訳を示します。これより、空調設備に関する熱源・熱搬送が1/3 から半数近くを占めていることが分かります。
この結果から、建築物内の省エネ実現のために、空調効率の改善が重要であることが示唆されます。そのための施策として外皮性能、日射遮蔽、換気効率の向上などがあげられます。
建築分野で求められる熱流体シミュレーション
シミュレーションは目に見えない現象を捉え、現象をコントロールする設計に役立てることができます。そのため、建築分野ではZEB・ZEH ひいてはカーボンニュートラルの実現に向けて、シミュレーションを取り入れる動きが進んでいます。
そんな建築分野におけるシミュレーションですが、これまであまり用いられていませんでした。その理由として以下のことがあげられます。
- 解析対象領域が広く、計算が大規模になりやすい
- ハードウェアおよびソフトウェアが非常に高価なため、イニシャルコストの高さから導入に踏み出せない
- 従来のソフトウェアはインターフェースが扱いにくい
構造計画研究所は、ハードウェア不要の完全クラウドCAEプラットフォーム SimScaleがこれらを解決し、建築業界におけるシミュレーションのゲームチェンジャーになると考えています。以下では、SimScale の特徴と計算事例についてご紹介します。
SimScaleの特徴
構造計画研究所ではSimScale を「完全クラウドCAE」と標榜しています。SimScale はGoogle Chrome などのWeb ブラウザで使用できるCAE のWeb アプリで、CAD モデルをアップロードすれば、シミュレーションをWeb ブラウザ上で完結することができます。シミュレーションの計算部分のみをクラウドで実行する他製品との違いを明確にするために「完全」と付けています。
SimScale では建築分野で便利な機能を数多く提供しています。以下にその例を示します。
- 熱的快適性指標(PMV, PPD)の計算
- 緯度・経度、日時を指定した日射の計算
- 空気齢の計算(換気効率の評価に用います)
- Revit やRhinoceros を含む幅広いCAD モデルの読み込み
これらの機能、ハードウェア不要である点からのイニシャルコストが低いことに加え、ユーザーフレンドリーに設計されたUI によって、世界では建築分野でも広く活用されています。
解析事例
解析事例① 熱的快適性指標(PMV, PPD)の計算
気流の解析
図4 は、4 階建ての病院内の空調機能の効果を検証した計算結果です。この事例では対流によって建物の1 階から4 階にかけて段階的に温度が高くなっている様子が分かります。また白い矢印は気流の流れを表しています。
快適性の解析
人が熱環境において感じる快適性の指標として、ISO 規格であるPredicted Mean Vote (PMV)、Predicted Percentage of Dissatisfaction (PPD)による評価が可能です。図5a はこれら2 つの指標の関係を示したものです。
PMV は熱的快適性の要素となる、気温、平均放射温度、相対湿度、平均風速、着衣量、作業量の6 つを考慮して計算される指標です。0 が最も快適であり、-3 が寒すぎる、+3 が暑すぎることを示します。
図5b から1 階では寒すぎると感じやすく、4 階では快適に感じやすいことが分かります。また白い矢印で示されている気流の周りのコンターが周囲より低い値を示していることから、気流が寒さを感じさせる作用をしていることが分かります。
解析事例② 換気効率の計算
空気齢の解析
この事例では、天井に換気扇のある建物内の空気齢を計算しています。空気齢は小さいほど換気が効率的に行われていることを示し、カビの発生や感染症・シックハウスの抑制につながるため好ましいとされています。
図6a は空気齢の解析結果を示しています。
この結果では一部空気齢の大きな箇所があることが分かります。
図6b は、空気齢のコンター(図6a)に流跡線(空気の流れる軌跡)を追加しています。
これより、壁沿いにまとまった流れができる一方、空気の流れにくい箇所があると考えられます。効果的な換気のためには、換気扇の位置の変更や換気扇の風量を調整することなどが考えられます。
解析事例③ 日射の解析
SimScale では日射を計算する機能があり、地図上から場所と日時を選択すると自動的に太陽の位置を計算します。図7 はその操作画面を示したものです。これにより日射の指向性を考慮した検討が可能になります。
以下に解析結果を示します。
図8a は建物の外側での日射の影響を示したもので、日射方向と壁の成す角の違い、壁面での熱抵抗の違いなどから、屋根や側壁で入熱量が顕著に異なっている様子がわかります。また、屋根では煙突部の影になっている部分で、日射による入熱が小さくなっている様子もわかります。
図8b は窓を通して室内に作用する日射の影響を示したものです。
このように数値解析を用いることで、どの位置で日射の影響を強く受けるのかをわかりやすく可視化できます。
おわりに
建築物における屋内空調に関する解析事例を紹介しました。カーボンニュートラル実現のために、温暖化による厳しい気象条件の中、省エネを実現するという高い要求を達成する必要があります。
熱流体シミュレーションを活用し設計案を比較検討することで、エネルギー効率がよく快適な空間を設計できます。
参考文献
- 環境省 ZEB・PORTAL
- 「光・熱・気流 環境シミュレーションを活かした建築デザイン手法」 編著 脇坂圭一
- 「最新 建築環境工学 改訂4 版」 共著 田中俊六 土屋喬雄 秋元孝之 寺尾道仁 武田仁
- ASHRAE-55
- ISO 7730
- 国立環境研究所「温室効果ガスインベントリ」
- 関東経済産業局「中小企業の支援担当者向け省エネ導入ガイドブック」
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