河川解析ソフトウェアiRICへの都市型水害予測解析システムの実装

近年、短時間のうちに大規模な降雨が発生することで、下水道などの排水能力が降雨規模に追いつかずに市街地に氾濫が生じる、いわゆる都市型水害(内水氾濫)が問題となっています。

近年では三重県四日市市において、大規模降雨により地下駐車場が水没し、300台弱の乗用車が被害を被ったことが記憶に新しいかと思います。

この事象の直接の原因としては、止水板の故障およびその状況を放置していたことでしたが、こうした問題に対して関係者が当事者意識をもって取り組むことが水害リスクの軽減、ひいては流域治水の考え方につながっていくと考えます。

構造計画研究所では、こうした氾濫のリスクを見える化・周知することで、自治体・施設管理者等の危機意識を高め、都市型水害の被害軽減に貢献しようと技術開発を進めています。

その中で本記事では、構造計画研究所が協賛会員となっているiRIC-UC※1での都市型水害モデル開発研究会での活動を、技術開発の内容を中心にご紹介します。


※1 iRIC-UC:一般社団法人iRIC-UCは、は、水工学の数値シミュレーションプラットフォーム「iRIC」の活動支援を通じて、水工技術の進化と活用促進に寄与することを目的とした団体です。会員と共に研究開発や教育プログラムを展開し、水環境と防災技術の向上による社会発展を目指しています。

都市型水害予測解析システムについて

都市型水害予測解析システムは、中部大学の武田誠教授と鹿島建設株式会社によって共同開発されたシステムです。本システムでは河川・下水道・氾濫原を連成させた一体解析を実施できます(図1)。


都市型水害予測解析システムの概要

図1 都市型水害予測解析システムの概要


iRICソフトウェアについて

iRICソフトウェアは、水工学に係る数値シミュレーションのプラットフォームであり、河川流・河床変動・氾濫・土砂等の幅広いシミュレーションモデルに対応しています。

iRICソフトウェアへの都市型水害予測解析システムの実装

iRICソフトウェアの長所の一つとして、プリポスト機能が充実していることが挙げられます。DEM(地形データ)インポートや、オートメッシュ作成、アニメーションによる解析結果の可視化機能(図2)などを備えています。

本取り組みは、都市型水害予測解析システムをiRICソフトウェアで扱えるソルバーの一つとして整備し、iRICのユーザーフレンドリー性を活かしながら内水氾濫解析を実施できる環境を提供することを目的としています。


iRICによる氾濫解析結果例

図2 iRICによる氾濫解析結果例


都市型水害モデル機能紹介1:下水道格子の定義

都市型水害予測解析システムにおいて、下水道格子は非構造格子として読み込みます。読み込み方法としてはシェープファイル、もしくはcsvファイルからの読み込みが可能です。いずれの場合においても、人孔(マンホール)および下水道管渠それぞれの形状をテーブルで定義(表1・表2)することが必要となります。

下水道情報の管理方法は各自治体によってまちまちですが、表計算ソフトファイルでの管理、もしくはGISデータとしての管理のどちらにもスムーズに対応が可能です。

表1 人孔情報csvファイルの例

人孔情報csvファイルの例

表2 下水道情報csvファイルの例

下水道情報csvファイルの例

下水道データ読み込み後のiRIC GUI上での表示例を図4に示します。人孔情報は点でのコンターで、管渠情報は線でのコンター表示が可能です。また、人孔IDなどの文字情報についてもGUI上で可視化が可能です。


下水道データ読み込み後のGUI表示例(左)
下水道データ読み込み後のGUI表示例(右)

図4 下水道データ読み込み後のGUI表示例(左:人孔底高標高、右:管渠内径)


図5に示すように、入力情報はGUI上でも編集が可能であり、入力データのモデルへの反映確認→モデルの修正・変更をGUI上でシームレスに行うことができます。


iRIC GUI上での下水道入力データの変更

図5 iRIC GUI上での下水道入力データの変更


都市型水害モデル機能紹介2:格子属性データの定義

計算領域の設定として、それぞれの格子の属性(河川・氾濫解析域・領域外など)を定義する必要があります(図6)。

格子属性の定義方法としては、iRICのGUI上でポリゴンを設定し、マッピングを実行することで格子属性を定義できます。もしくは、ユーザー側でGIS等を活用してラスタデータを作成し、インポートしたものに対してマッピングすることも可能です。なお、標高・雨量・粗度係数などの情報も、格子属性データの定義方法と同様の方法で定義可能です。


格子属性データの定義

図6 格子属性データの定義


この機能はiRICソフトウェアが有する他のソルバーと共通として開発しており、従来からiRICを使用しているユーザーにとっては馴染みやすいものとなっています。


都市型水害モデル機能紹介3:河川と下水道の接続の定義

都市型水害予測解析システムは、「地表面‐下水道間」、「地表面‐河川間」とともに、「河川‐下水道間」の水のやり取りも動的に計算するモデルです。したがって、下水道と河川の接続を境界条件として定義する必要があります。

設定については、図7に示す通り、点(人孔)を選択し、接続する河川断面番号をGUI上で入力することで設定可能です。また、多数の接続条件を一括で作成するための外部プログラムも整備しており、ユーザーの使いやすさを追求しています。


河川と下水道の接続の定義

図7 河川と下水道の接続の定義


都市型水害モデル機能紹介4:結果の可視化

結果の可視化は2次元平面でのコンター表示、時系列グラフ表示に対応しています。図8に結果の可視化例を示します。

下水道の計算結果については、人孔の水位および水深や、そのタイムステップでの状態(溢水/通常)などを点のコンターで表示できます。管渠についても同様に、水深・水位・管渠状態について線でのコンター表示が可能です。


結果の可視化の一例

図8 結果の可視化の一例


都市型水害モデル開発研究会の今後の展望

現状としては都市型水害予測解析システムの基本機能をiRIC上で利用することが実現できています。しかし、実際の内水氾濫解析の実施においては、下水道データの管理方法が場所によって異なっていたり、樋門等の水理施設を考慮する必要があったりという事象に対応するため、本システムにさらなる汎用性を持たせるための改良が必要と考えられます。

都市型水害モデル開発研究会として、今後改良が必要と考えているのは主に以下の項目です。

  • 下水道データの管理形式に捉われないモデル作成機能の拡充
  • 特に、紙やPDF等、直接データテーブルとして扱うことができないデータ形式への対応
  • 非構造格子(下水道データ)のエラーチェック機能
  • 樋門や樋管などのモデル化機能
  • 下水道管路の縦断方向の結果可視化機能

都市型水害モデル開発研究会では、本プロジェクトに協賛している複数社が一体となって技術開発を進めております。構造計画研究所も積み上げてきたソフトウェア開発技術を活かし、都市型水害の浸水被害予測や対策検討に貢献できるよう努力してまいります。

関連ページ

解析技術事例集ダウンロード

さまざまな解析技術をまとめた資料をダウンロードいただけます。
解析技術の概要から、具体的な事例まで詳しくご紹介しています。ぜひ一度ご覧ください。