データ活用による生産・インフラ設備の予防保全・品質不良検知

近年、生産設備や生産物の多様化や複雑化、少子高齢化による人手不足の深刻化に伴い、設備保全や品質管理の効率化が喫緊の課題となっています。しかし、多くの保全業務、品質管理業務が人手によるノウハウで行われており、今後さまざまな課題の解決が困難になりつつあることも事実です。

構造計画研究所では、早くからデータ分析技術やAI技術を活用し、人による保全の判断や異常判断を、すばやくかつ極力自動的に行う技術に取り組んでまいりました。

ここでは、「生産設備・インフラ設備の予防保全、品質管理」をデータ活用により高度化する技術についてご紹介します。

実績のある対象と課題

生産・インフラ設備の予防保全、品質不良検知で構造計画研究所において実績のある対象としては、たとえば以下のようなものがあります。

実績のある対象

対象となるお客様の課題としては、

  • 設備保全のためのデータは取得しているが活用できていない
  • データに基づく保全は行なっているが精度が十分でない、データを十分に活かせていない
  • データ計測・収集の仕組みがなく取り組みが進められない
  • 品質と設備データの紐付けにより不良要因を見出したい

といったものが挙げられます。

このようなお客様の課題解決のお手伝いをさせていただいた事例を以下でいくつかご紹介します。


予防保全事例 | 鉄道設備の異常検知

鉄道設備(電気転てつ機)の稼働時のデータを利用し、転換を行うごとに状態の正常性(異常性)を判定し、異常だった場合にはその要因を推定するという仕組みを構築した事例です。

お客様の課題

  • 従来は取得データ項目の一部を使用した状態監視を行っていた
  • 機械学習(多変量解析)を用いることで全ての項目を有効利用した状態監視を行いたい

異常検知・要因分析による解決

1-class SVM(Support Vector Machines)や密度比推定といった異常検知手法と多クラスSVMやk-NN(Nearest Neighbor)法といった(故障種別)分類手法を採用し、PoC(Proof of Concept: 実現性検証)を行い、課題解決に有用な手法の選定を行いました。

鉄道設備の異常検知

鉄道設備の異常検知(イメージ)


参考文献:鈴木他. 転てつ機モニタリングデータの活用による異常把握と要因分析に関する研究. 電気学会ITS研究会資料(電気学会研究会資料). ITS-13号. p. 39-44. 2013.


予防保全事例 | 低圧ガス導管被害推定

地震時のデータに基づく低圧ガス導管の被害推定に関する研究の支援をした事例です。

お客様の課題

  • 物理モデルに基づく方法は地域・地形などによってモデルのパラメータを変更する必要がある
  • 現象が複雑なためデータを活用することで精度の高い被害推定モデルが実現できるかを検討したい

解決策

密度比推定と呼ぶ異常検知手法を用いて、SI値などの各種地震関連データおよび埋設年度などのガス導管の情報から「状態の異常度合い(=被害度合い)」を推定しました。結果として、物理モデルに基づく以外の方法でも被害状況との相関が確認できる指標を算出することができ、既往手法とも類似の傾向が得られることが確認され、代替手段としての可能性が示唆されました。

低圧ガス導管被害推定

低圧ガス導管被害推定(イメージ)


参考文献:滝他. 機械学習を活用した低圧ガス導管被害推定手法の検討. 第9回インフラ・ライフライン減災対策シンポジウム. 2018.


予防保全事例 | ロボットアームの関節軸異常検知

自動車工場内にある多数のロボットアームの故障予知技術開発を行った事例です。

お客様の課題

  • ロボットアームにはトルクデータを用いた異常検知機能が内蔵されているが誤報が多い
  • 見逃し、誤報を可能な限り減らし信頼性の高い監視機能を実現したい

解決策

低圧ガス導管被害推定の事例と同様、密度比推定と呼ぶ異常検知手法を用いて目的とする精度が得られるかを検証しました。ここでの対象物は、潤滑不足や温度の影響によりスパイク状のノイズが発生する、動作変更後にデータ傾向が大きく変わるなど、故障起因でないデータ変動が確認されていました。機械学習技術による正常/異常判定に加え、そのようなドメイン知識による前処理 / 後処理を施すことで目標とする精度を達成するに至りました。

ロボットアームの関節軸異常検知定

ロボットアームの関節軸異常検知定(イメージ)


参考文献:田中他. 機械学習を用いた生産ロボット減速機の故障予知手法の開発. 自動車技術会論文集. 2019年50巻2号. p. 585-590.


品質管理事例 | スポット溶接におけるナゲット径異常検知

スポット溶接時のナゲット径異常(溶接不良)を、溶接時の電流値等に基づいて検出する仕組みづくりの事例です。

お客様の課題

  • 品質低下を見逃すと不良品が継続的に発生し歩留が低下する
  • 品質検査コスト削減のため、製造データと品質の紐付けにより不良発生を未然もしくは早期発見し、歩留を向上させたい

解決策

結果の解釈性を重視した古典統計モデル(マハラノビス-タグチ法)および機械学習モデル(Isolation Forest)を用いて製造データに基づいて状態の定量化を行い、ナゲット径との関連性を評価しました。結果として、検証したモデルによって算出される指標(異常度)とナゲット径(品質指標)で相関が確認できたため、異常度を破壊検査でしか確認できない品質指標の代替指標として利用できる可能性が示唆されました。

スポット溶接におけるナゲット径異常検知

スポット溶接におけるナゲット径異常検知(イメージ)

課題解決の進め方

構造計画研究所におけるお客様の課題解決の進め方についてご説明します。
概ね以下のようなフローで進めています。

課題解決の進め方

課題解決の進め方

課題ヒアリング

まずは、お客様の課題と目的についてヒアリングを行います。AIや機械学習といった技術が注目されていますが、手持ちのデータの有無やデータ品質、目的によってはそれらの技術が適当でない場合も少なくありません。構造計画研究所ではお客様の状況に応じて柔軟なご提案をしております。

データ計測(緑枠フロー)

まだ対象とする設備に関してデータ取りを行っていない、もしくは追加でデータ計測を行いたいというような場合にはデータ計測のご提案をしております。ご提案可能な計測対象や計測方法に関しては対象物や検出したい故障・異常などをお聞きした上で都度検討するという進め方をしております。

PoC(青枠フロー)

AIをはじめとしたデータに基づくアプローチに関しては、実際にデータを用いた検証を行ってみないと目標が達成可能かどうかを判断することが難しい場合がほとんどです。実際にお客様にツールやシステムを開発・ご提供する前にPoCを実施し、実用に足る精度が得られるか、当初目的が達成可能かどうかを検証します。

開発(灰枠フロー)

PoCにより、データに基づくアプローチにより目的が達成できる見込みが立てられる場合には、お客様の業務でお使いいただけるツール・システムの開発を行います。AIを含むようなシステムはAIモデルの改善・変更が必須となりますので、継続的なPoC等を行い、ツールの改善・改修を行うことになります。
なお、PoCによるデータ解析の深掘りを行う前に「まずはAI等の技術によってどのような結果が得られるのか確認してみたい」というご要望がある場合には、取得データや解析結果を簡易的に可視化するツールのご提供もしております。

データ解析技術(人工知能・機械学習)

ここでは、これまでにご紹介した課題解決の際に活用したデータ解析技術(人工知能・機械学習)の例をご紹介します。

状態空間モデル

運転状態が複数あるような設備に関しては、状態ごとにデータの切り分けが必要な場合があります。管理記録や製造記録などから状態の変化が把握できる場合はその必要はありませんが、そうでない場合はデータの変化傾向から状態変化を検出する必要があります。
そのような場合には状態空間モデルと呼ぶ技術を用いてデータ変化を把握します。

状態空間モデル

状態空間モデル(イメージ)


時系列深層学習異常検知モデル

設備やセンサ、定期点検時のデータは多くの場合、時間的な関係性を持つ時系列データとして取り扱う必要があります。

そのような場合には、得られるデータをそれぞれ「独立した」データとして扱うモデルではなく、時間的関係を考慮可能な時系列モデルを採用する必要があります。近年の深層学習技術の発達により、複雑な時系列データを取り扱うことが可能となり、構造計画研究所でもそのような時系列深層学習技術による異常検知を行います。

時系列深層学習異常検知モデル

時系列深層学習異常検知モデル(イメージ)


その他異常検知モデル

異常検知という課題(問題設定)に対して利用可能なデータ解析技術は数多く存在しており、今なお盛んに研究されている領域でもあります。

構造計画研究所では、ホテリング理論に基づくような統計的なアプローチから、第3次AIブーム以前に提案・開発された機械学習によるアプローチ、第3次AIブーム(現在進行形)で提案された(されている)アプローチなどを、お客様の課題や目的、データ、運用環境などを考慮の上適切な方法を選択しご提案しています。

その他異常検知モデル

課題・データに即した適切なデータ解析手法のご提案


説明可能AI

AI技術(機械学習技術)は物理的なメカニズムに基づいて構築される物理モデルとは異なり、入出力の対応のみから関数が「学習」されるため、出力結果に対して「なぜそのような結果となったのか」を説明する能力(解釈性、説明性)に欠けるという欠点があります。

近年では、そのような欠点を一部克服するための技術として「説明可能AI(eXplainable AI: XAI)」と呼ぶAI技術が研究・開発されています。

このXAIは物理モデルのように「メカニズム」を説明できるわけではないものの、結果に対して「どの入力データをみてそのような結果となったのか」を確認することができます。

構造計画研究所では、AIによる「結果」をできるだけ保全活動や設計業務に有効利用していただくために、このような技術による情報をご提供するシステムの検討も行っています。

説明可能AI

説明可能AI

説明可能AI(イメージ)

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