上下水道施設の耐震評価
上下水道施設の耐震評価の指針は、2022年に「水道施設耐震工法指針・解説 公益社団法人日本水道協会」、2014年に「下水道施設の耐震対策指針と解説」が公開されています。
2022年の「水道施設耐震工法指針・解説」では、地震被害の教訓を反映して、性能規定型設計への移行が明確になっています。また、簡易な解析手法である静的線形解析で検討可能なのは「地盤が安定している」「構造が単純」「施設規模が小さい」などの条件が揃った場合のみで、それ以外の場合は全て高度な解析手法である静的非線形解析、動的非線形解析で評価する事になっています。
構造計画研究所では永年培ってきた土木構造物の耐震解析コンサルティングの経験と実績に基づき、お客様の目的に応じたモデル化や解析手法のご提案から耐震評価まで、柔軟な解析コンサルティングを提供しています。
解析コンサルティングの内容を以下にご紹介します。
上下水道施設の耐震計算法・モデル化手法
2022年の「水道施設耐震工法指針・解説」では、過去の指針よりも明確に動的解析の採用を勧める記述となっています。
動的解析は、構造物の種類や振動特性、求める応答値の種類によって、適切な耐震計算法やモデル化手法を選定する必要があります。例えば、特定の断面で振動が表現できる場合は2 次元でのモデル化が可能ですが、3 次元的な挙動が無視できない場合は、立体としてモデル化する必要があります。また、地盤の影響が無視できない場合は、構造物と地盤の一体モデルを用いる場合もあります。
主な耐震計算法と照査手法は以下のとおりです。
耐震計算法・静的解析手法
- 震度法
- 応答変位法
耐震計算法・動的解析手法
- 地盤解析
- 構造解析
- 地盤と構造物の一体解析
- 流体と構造物の一体解析
照査手法
- 許容応力度法
- 限界状態設計法
2022年の「水道施設耐震工法指針・解説」において動的解析が主な解析手法となることで、地震動の設定が非常に重要になります。
そこで、地震動評価について簡単にご紹介します。
上下水道施設 地震動評価フロー
一般的な設計用の入力地震動評価は、以下の手順で行われます。
Step 1 地震環境の調査
建設地点周辺の活断層や過去に起きた被害地震の活動履歴、国や自治体による被害想定を調査し、建設地点で最も影響が大きいと考えられる想定地震を選定します。
Step 2 工学的基盤面における地震動作成
Step 1 で選定した想定地震の震源断層モデルや建設地点における地下構造モデルを設定し、工学的基盤面における地震動を作成します。評価対象の構造物や地盤の周期特性も考慮して、適切な地震動作成手法を選択します。
Step 3 浅部地盤の地震応答解析
Step 2 で作成した工学的基盤面における地震動を入力とした浅部地盤の地震応答解析を行い、構造物への入力となる地震動を評価します。浅部地盤の地震応答解析では、地盤物性の非線形性や液状化の影響を適切に考慮できる解析モデル・解析手法を用いる必要があります。
地震動の評価には理論や工学的知見などに基づく様々な判断が必要であり、その判断根拠について説明が求められます。
構造計画研究所では、各種評価方法による地震動評価に必要な知識と経験を20年にわたり蓄積してきました。評価方法に関するアドバイス、案件にあったモデル化の方法など、お気軽にご相談ください。
次に、上下水道施設の耐震解析事例をいくつかご紹介します。
矩形水槽のバルジング挙動の解析例
東日本大震災や熊本地震では、貯水タンクなどで、スロッシング現象やバルジング現象による被害が発生しました。
バルジングは、側板が液体と接して弾性体として変形しながら振動するものです。バルジングのような複雑な挙動を追跡するためには、動的解析が有効です。
そこで動的解析の適用事例として、矩形水槽のバルジング挙動を模擬した解析例をご紹介します。
矩形水槽のバルジング挙動の解析例 解析条件
水が入った矩形の鋼製水槽に、正弦波で振動を加えました。
解析条件は以下のとおりです。
解析モデル
- 水槽
- サイズ:1m×1m×1m
- 板厚 :2mm
- 材料 :SS400相当
- 内用物
- 水(水深0.8m)
解析手法
- 3次元時刻歴応答解析
- 流体-構造連成解析
- 材料弾塑性解析
入力波
- 正弦波(2.2Hz、最大振幅600gal)
- 加振方向 :矩形の辺に平行な方向
解析モデル図を以下に示します。
矩形水槽のバルジング挙動の解析例 解析結果
矩形水槽のバルジング挙動を模擬した動的解析の可視化結果(変形図(左:水、右:水槽))です。
振動により水槽内の水が揺動し、水槽の壁面も変形することで、水と水槽の壁面との相互作用が発生しています。矩形の辺に平行に加振していますが、水槽の変形による連成効果で加振していない方向への応答も見られます。
バルジングのような現象は静的解析では考慮できず、現象を把握するためには、動的解析が有効であることが分かります。
浄水場沈殿池(池状構造物)の解析事例
特定の断面で評価することが難しい円形形状の構造物などでは、3次元FEMモデルが用いられます。
池状構造物である浄水場沈殿池を対象に、3次元静的線形解析を行い、限界状態設計法による耐震性能照査を実施した事例をご紹介します。
浄水場沈殿池(池状構造物)のモデル化・解析手法
解析モデルは、地盤と構造物を分離した地盤・構造物分離モデルです。
まず、地盤の一次元動的非線形解析を行い、地表面の加速度応答時刻歴波形を算出します。次に、算出した地表面の加速度応答時刻歴波形から設計水平震度を設定し、構造物の3次元静的線形解析を行いました。
地盤と構造物を分離した解析フローは以下のとおりです。
①地盤の動的非線形解析
地盤の一次元動的非線形解析により地表面の加速度応答時刻歴波形を求め、構造物特性係数Csを考慮して設計水平震度を定めます。
解析プログラムは、成層地盤地震応答解析プログラム k-SHAKE+ for Windows を用いました。
②構造物の静的線形解析
浄水場沈殿池(池状構造物)の3次元FEMモデルです。
設定した設計水平震度より慣性力、地震時土圧、動水圧等を構造物に作用させ、静的線形解析を行います。
静的線形解析の結果(断面力図、変形図)を示します。
断面力図 | 変形図 |
構造物の3次元静的線形解析によって得られた断面力に対し、限界状態設計法で照査を行います。
③耐震補強の検討
照査結果に応じて耐震補強を検討します。
液状化の影響を考慮した地盤・構造物一体モデルの解析事例
液状化の影響を詳細に評価する必要がある場合には、有限要素法を用いた2次元、3次元の有効応力解析を行います。
地中構造物を、地盤・構造物一体でモデル化し、液状化を考慮した動的解析(2次元有効応力解析)を行った事例です。
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関連ソフトウェア
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- 地震荷重設定システム SeleS for Windows
- 模擬地震波作成プログラム ARTEQ for Windows
- 成層地盤地震応答解析プログラム k-SHAKE+ for Windows
- 地震波形処理プログラム k-WAVE for Windows
- 汎用非線形構造解析プログラム RESP-T
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