1.はじめに
近年の地球温暖化等の影響により,台風の大規模化や平均海水位の上昇が懸念されている.一方で我が国の都市部は沿岸の低平地に多く分布し,今後これらの都市に対する高潮災害のリスク増大が予想される.
東日本大震災以降,世の中の意識変化などにより地震や津波などさまざまな災害に対する取組は進んでいる.しかし,各種ハザードマップの整備状況によると,他の災害に比べ高潮ハザードマップの整備率は極端に低く,発生頻度に対して高潮災害への取組はやや遅れ気味である.その様な状況に対し,農林水産省等から『高潮浸水想定区域図作成の手引き(平成27年7月)』1)(以下,手引きと呼ぶ)が公表され,技術的観点からは統一的な手法が示された.そこで,本記事では手引きの手法を組込んだソフトウェアを開発し,基本的な動作確認を行うとともに,第二室戸台風を用いた再現解析による精度検証結果をまとめた.
2.高潮シミュレーションコードの開発
2.1 計算方法
高潮シミュレーションは,概ね手引きに記載の方法に従っているが計算手法の概要を以下に示す.
高潮シミュレーションは,一般的な津波シミュレーションと同様に広い海域を対象とした現象である.海洋の水の鉛直方向の運動が微小であり静水圧力分布の仮定を導入し,水深方向に平均化した運動を仮定すれば2次元平面問題となり,非線形長波方程式として記述できる.
手引きでは,気圧(吸い上げ)と風場(吹き寄せ)の効果以外に,波浪やうねり等による効果が考慮されているが,ここでは概略検討として気圧と風場による効果のみを考慮している.
2.2 台風モデル
高潮現象の駆動力となる台風モデルは,台風中心からの気圧変化を関数で仮定するMyersの式を用いた.この式から計算される台風周辺の気圧勾配と遠心力,コリオリ力の釣合いから,台風によって発生する風速が計算される.さらに,台風の移動速度効果を合成すれば,台風周辺の速度分布が計算される.図2に台風が北に進んだ場合の風速ベクトルと速度分布例を示す.台風の進行方向右側に強風域が発生している状況が表現されている.
3.第二室戸台風の再現解析
3.1 使用データ
高潮シミュレーションの妥当性確認のため,1961年の第二室戸台風の再現解析を試みた.第二室戸台風は1961年9月6日に発生,9月20日に消滅とされている2).この期間から日本列島を通過する,9月15日21時から9月16日21時までの24時間の再現解析を行った.台風の移動速度は気象庁による気圧・経路位置情報,中心気圧は台風上陸時の値からそれぞれ設定した.解析条件の一覧を表1に示す.今回は大まかな精度検証を目的としたため,元となる地形データは,陸域は50mメッシュ,海域は500mメッシュとやや粗いものを用いている.
再現解析から得られた6時間毎の波高分布を図3に示す.図より設定した経路にて台風が移動していることを確認した.
3.2 最高潮位とその到達時間の比較
気象庁3)による第二室戸台風の潮位偏差は大阪で2.6m,和歌山で2.2m,また近畿地方への台風上陸は9/16の13時過ぎとされている.解析結果から得られた大阪と和歌山付近の水位の時刻歴波形を図4に示す.図より,水位でやや差異が認められるものの,到達時間も含め概ね再現されていることが確認できる.
4.まとめ
災害リスク増大が懸念される高潮災害への対応を行うため,高潮シミュレーションコードを開発し,第二室戸台風の再現解析によりその妥当性の確認を行った.今後は,現在未考慮である波浪等の影響を加味できるよう機能追加を行うとともに,詳細な地形や海岸構造物を考慮した解析,その他の台風での精度検証や防災への利活用の検討を行う予定である.
参考文献
1)農林水産省・国土交通省:高潮浸水想定区域図作成の手引き,平成27
年
2)国立情報学研究所:デジタル台風 台風画像と台風情報,
http://agora.ex.nii.ac.jp/digital-typhoon/
3)気象庁:災害をもたらした気象事例 第二室戸台風,
http://www.data.jma.go.jp/obd/stats/data/bosai/report/1961/1961
0915/19610915.html