地震 記事

能登半島地震の被害の可視化(その4)

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はじめに

前回は能登半島地震による震度分布を確認しました。
今回は揺れが強い地域は土砂災害範囲と対応しているか、という観点で比較をしてみようと思います。

ツールは引き続きQGISを使用し、背景地図には地理院タイルを使います。

やりたいこと

震度分布レイヤに土砂災害範囲レイヤを重ねて眺めても、対応はわかりにくいです。
そこで、土砂災害エリアに計測震度(QUIET+より取得した計測震度相当値)の値を付与し、より定量的に比較を行ってみたいと思います。

下準備1

土砂災害範囲は地域ごとにファイル(hokai_all_*geojson)が分かれているので、QGIS上でひとつのレイヤにしておきます。

QGIS上部の「ベクタ」から「データ管理ツール」→「ベクタレイヤをマージ」をクリックします。
すると、以下の設定画面が表示されます。

入力レイヤのところからマージしたいレイヤにチェックを入れます。

最後に実行をクリックしてマージが完了します。

マージ後のレイヤはデフォルトだと「出力レイヤ」となっていますが、名前を変えておいた方がわかりやすいので、ここでは「hokai_all」にしておきます。

また、このレイヤは「一時スクラッチレイヤ」(プロジェクトを削除すると消える)なので、適宜保存しておきます。

以下の画像では、保存したレイヤを追加し(一時レイヤは削除)、ついでに色も変えています。

下準備2

のちほどの処理のため、計測震度レイヤの範囲をおおよそ能登半島だけに絞ります(元のレイヤは広すぎて重たいため)。

QGIS画面上部の「ラスタ」→「抽出」→「範囲を指定して切り抜く」を選びます。
すると、切り抜き設定画面が出てきます。

入力レイヤには前回設定した計測震度レイヤを指定します。
切り抜く範囲は、その指定の仕方が複数用意されています(右端のプルダウンメニューより選択)。
ここでは、「キャンパスに描画」を選択し、地図上で切り抜く範囲を矩形で設定します。

切り抜きを実行した結果が以下です。

左のレイヤパネルの「出力ファイル」が切り抜き後のレイヤですが、これは一時レイヤなので、適当な名前(ここでは、能登半島地震_計測震度_切り抜き)で出力したのち、それをQGIS上に読み込みます(出力レイヤは削除)。

切り抜いたレイヤはグレースケールなので、前回設定したようなカラースケール(震度ごとに色を付ける)にしたいのですが、同じ作業をするのは面倒です。

そこで、前回色をつけたレイヤを右クリックして、「スタイル」→「スタイルをコピー」を選びます。
そして、そのまま切り抜いたレイヤを右クリックして、「スタイル」→「スタイルを貼り付け」を選びます。

すると、グレースケールだった切り抜かれたレイヤが、前回と同じ色で塗られたレイヤになります。

下準備3

さらにのちほどの処理のために、切り抜いた計測震度レイヤをベクタに変換しておきます。

QGIS画面上部の「プロセシング」→「ツールボックス」から「ラスタをベクタ化(pixels to polygons)」を検索し、クリックします。

ラスタレイヤはさきほど切り抜いたレイヤを選択します。
他の設定はデフォルトのままで、実行をクリックします。

実行後は、一時レイヤ(ベクタ化されたレイヤ)ができるので、切り抜き処理のときと同様に出力した後、出力ファイルを読み込みます。

読み込んだのち、適当に色をつけたものが以下です。
ベクタ化したレイヤの名前は「能登半島地震_計測震度_切り抜き_ベクタ」にしています。

土砂災害範囲に計測震度の値を付与する

準備が整ったので、記事のその1で紹介した能登半島地震による土砂災害範囲のレイヤに、計測震度の値を付与していきます。

再びプロセシングツールボックスから、今度は「交差(intersect)」を検索し、選びます。

入力レイヤは、下準備3で作成したレイヤ(切り抜いた計測震度レイヤ)、オーバーレイヤは下準備1で作成したレイヤ(土砂災害範囲のレイヤ)にして、実行します。

例によって、一時レイヤ(交差(intersect)という名前)ができるので、出力したのち、読み込みます。
読み込んだレイヤは「能登半島地震_計測震度と土砂災害」という名前にしています。

計測震度と土砂災害範囲の対応

ここから、
土砂災害が発生した範囲ではどのくらいの揺れが多かったのか?
を確認していきます。

さきほど作成したレイヤのシンボロジ画面を開き、「連続値による定義」を選びます(値はVALUE)。
次に、ヒストグラムのタブを選択し、「値の読み込み」をクリックすると、ヒストグラムが描画されます。

縦軸のカウントは、レイヤに含まれるポリゴン数に対応します。

ここで、計測震度の値を付与する際に、土砂災害レイヤはメッシュ状に分割された領域が含まれたことにご注意ください。

前述のヒストグラムでは、面積を考慮できていないので、「土砂災害が発生した範囲の揺れの傾向がわかる図」を作成していきます。

土砂災害レイヤの面積を計算

まずは、さきほどの計測震度を付与した土砂災害範囲のレイヤ(QGIS上では「能登半島地震_計測震度と土砂災害」という名前)のポリゴンごとの面積を計算します。

対象レイヤを右クリック→「属性テーブルを開く」
すると、以下のような画面が開くので、画面上部のそろばんのようなマーク(フィールド計算機)をクリックします。

以下のようにフィールド計算機が開きます。
ジオメトリというカテゴリから「$area」を探して(検索してもいいです)、ダブルクリックします。

これによって、各ポリゴンの面積(単位はm2)が自動で計算されます。
「出力する属性の名前」は適当に設定し(ここでは、面積(m2))、フィールドの型はreal(実数型)にしておきます。

最後にOKをクリックすると、さきほどの属性テーブルに面積(m2)という列が追加されています。
属性テーブルの上部にある保存マークをクリックし、面積を計算する作業は終了です。

面積を出力して計測震度と面積の関係をグラフにする

レイヤウィンドウの画面に戻って、面積を計算したレイヤを右クリック→「エクスポート」→「新規ファイルに地物を保存」をクリックします。


ここでは様々な形式でレイヤを出力できますが、出力形式を「カンマで区切られた値[CSV]」とすると、レイヤに含まれる情報(例えば、このレイヤでは、付与した計測震度や計算した面積)がcsv形式で出力されます。
なお、出力された中身が文字化けする場合は文字コードも設定してください。

出力したcsvの中身は以下です。

VALUEに計測震度の値が入っているので、これと面積(m2)の値を使って、土砂災害範囲と計測震度の関係をグラフにしていきます。

以下ではエクセルを使って、任意の計測震度区間(例:5.5~5.6)の土砂災害面積の合計値を計算しました。
その結果がこちらです(面積の単位はkm2に変換しています)。

これを見ると、土砂災害が発生した範囲では、計測震度5.9~6.0(震度6弱)の揺れが一番多かったことがわかります。

また、累積相対度数についてもグラフ化すると、計測震度5.5以上の割合はおよそ9割なので、土砂災害発生範囲のほとんどは震度6弱以上だったと言えます。

まとめ

今回は、土砂災害範囲と計測震度の関係を確認してみました。
その結果、能登半島地震による揺れの強さと土砂災害発生範囲にはなんらかの関係がありそうなことがわかりました。

ただし、土砂災害(例えば、地すべりや斜面崩壊)の発生については、斜面の傾斜角や土壌の水分量、地質なども絡んでくることにご注意ください。
能登半島地震においては震度5強以下の地域で土砂災害はほとんど発生していないと言えそうですが、条件によっては震度5強以下でも土砂災害が発生することはあります。

この記事を含め4回に渡って能登半島地震の被害について記事を書いてきましたが、この回をもって一旦終了となります。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

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