はじめに
2019年に発生した台風15号や台風19号により大きな被害が発生しました。ここでは台風15号発生時のAMEDAS観測データと高潮計算プログラムで計算した気圧と風速を比較してみました。さらに、高潮計算を行い東京湾内の水位上昇量や波浪分布の解析例を示します。
台風計算モデル
高潮計算で用いる台風の気圧分布は、Myer式という近似を用いています。これは、台風に起因する気圧変化を中心からの距離rの関数として次式で仮定するものです。
\(P(r)=P_c+∆Pexp(-\frac{r_0}{r})\)
\(P(r)\) : 中心から距離r地点での圧力
\(Pc\): 台風の中心気圧
\(∆P\): 台風中心の低下圧力
\(r_0\): 最大風速半径
この式から計算される台風周辺の気圧勾配と遠心力,コリオリ力の釣合いから、台風によって発生する風速が計算されます。さらに、この速度に台風の移動速度を合成すれば台風に起因する速度分布が計算できます。
台風計算
気象庁が公表した台風15号の情報(時刻、位置、中心気圧)を基に台風移動に伴う気圧と風速の変化を計算しました。Myer式の計算に必要な最大風速半径は気象庁の公開データに含まれていないので、台風発生時の気圧分布と台風計算モデルが合うように最大風速半径を調整して計算を実施しています。
下図に台風が千葉付近を通過する時間の風速分布を示します。台風の進行方向右側で風速が大きくなるという台風の特性が表現されている事が分かります。
観測値との比較
AMDEDAS観測点(館山、千葉)における気圧と風速の計算値を観測値と比較し、計算手法の妥当性を検討しました。AMEDASの風速観測値には10分間平均風速と最大瞬間風速のデータがありますが、最大瞬間風速は乱れによる変動成分と考えられるので、ここでは平均風速と計算値を比較しています。下図にAMEDAS観測位置と、気圧・風速に比較結果を示します。
館山、千葉ともに計算された気圧の変化は観測値を非常に良く再現しています。風速値に関しては、計算値は定性的な傾向は再現していますが、若干の違いが発生しています。計算値と観測値の違いは、台風風速の計算式が陸上の地形や地表面の抵抗などを考慮していないという事が大きな原因であると考えられます。
高潮計算
台風計算モデルによって算出された気圧や風速の変化を用いて、高潮による水位変化を計算した結果を以下に示します。下図は東京湾周辺で発生した最大偏差潮位を示したものです。台風の通過経路と湾内の形状から海水が千葉付近に吹き寄せられ、湾奥で水位が上昇している事が分かります。
波浪計算
高潮計算と同様に、台風に起因する風速を用いた波浪計算結果を以下に示します。下図は東京湾周辺の最大波浪分布を示したものです。東京湾内は外洋よりも波の高さは小さくなっているものの、2m~3m程度の波浪が発生している状況が表現されています。
おわりに
今回は、2019年台風15号の再現解析を実施し、高潮解析プログラムの有効性・有用性を確認しました。近年、台風の大型化が懸念されており、今後も本計算手法の活用を進めていきたいと思います。