はじめに
地盤の地震応答解析の手法(3)では、前2回(地盤の地震応答解析の手法(1) 、 (2))でご紹介した2手法を用いて実際に解析を行い、結果にどの様な違いが出るのかを比較してみたいと思います。
前2回にて、大きな歪レベルでは等価線形解析の精度が悪く、時刻歴非線形解析の方が有用な傾向にあることを示しました。
そこで、今回は同一の地盤モデルを用意し、工学的基盤面に大きさの異なる2種類の地震動(波①②)を入力して、等価線形解析および時刻歴非線形解析による地表面の応答解析を試みました。
解析の結果、等価線形解析における最大せん断ひずみは、波①では0.05%と、等価線形解析の適用範囲(約0.1%まで)内ですが、波②では1.24%と、等価線形解析の適用範囲を大きく超えています。
時刻歴波形の比較
それでは、地表面における時刻歴波形を見比べてみましょう。
拡大した初期微動部分を見比べると、波①では等価線形解析の結果(赤線)と時刻歴非線形解析の結果(黒線)は概ね一致していますが、波②では時刻歴非線形解析で評価されているレベルの振幅が等価線形解析で表現できていないことがわかります。
また、最大加速度の値を比較すると、波①では両手法の結果に大きな差が無いのに対し、波②では等価線形解析が100cm/s2以上大きい値を示しています。
上記解析結果の要因として、等価線形解析では、全時刻で平均的な同一の物性値(剛性、減衰)を用いていることが挙げられます。この特徴より、最大せん断歪が大きくなる地震動を等価線形解析で評価する場合、
- 振幅が小さい時刻:実際の物性値と比較して低剛性、高減衰での評価
- 振幅が大きい時刻:実際の物性値と比較して高剛性、低減衰での評価
となる傾向にあります。従い、両手法の振幅の差は、
- 振幅が小さい時刻:等価線形解析<時刻歴非線形解析
- 振幅が大きい時刻:等価線形解析>時刻歴非線形解析
となる傾向にあります。
応答スペクトルの比較
つぎに、加速度応答スペクトルを見てみます。
丸で囲んでいる部分を見ると分かるとおり、波①では両手法の加速度応答に大きな違いは見られませんが、波②では短周期成分において等価線形解析の結果が小さくなっていることがわかります。この様子は、時刻歴波形でも確認することができます。波②の初期微動拡大図を見ると、等価線形解析では時刻歴非線形解析で見られる細かい波が表現できていないことが分かります。
最大せん断歪の比較
さいごに、最大せん断歪を見比べてみます。
最大せん断歪についても、波①では両手法に大きな差はありませんが、波②では丸で囲んでいる、歪が大きく出る層において、等価線形解析が時刻歴非線形解析に比べ大きな値を示しています。要因は、時刻歴波形の比較にも記したとおりで、等価線形解析における波②の評価は、最大せん断歪が出る時刻において実際の物性値よりも高剛性・低減衰での評価となるためです。
まとめ
今回は、地盤の地震応答解析の手法(1)、(2)でご説明した「SHAKEによる等価線形解析」および「時刻歴非線形解析」を用いて実際に解析を行い、両手法の結果の違いを比較しました。
最大せん断ひずみが等価線形解析の適用範囲内では両手法の結果に大きな違いは見られませんが、適用範囲を大きく超える場合には、短周期成分を過小評価、最大加速度や最大せん断歪を過大評価してしまう傾向を確認しました。
以上より、等価線形解析の適用範囲を超える歪が予想される場合は、時刻歴非線形解析を用いることをおすすめします。
※本記事の内容はあくまで実解析の一例です。必ずしも今回示した傾向と同じ結果になるとは限りませんのでご注意ください。