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杭体の非線形性を考慮した群杭フレームモデルの解析手法に関する考察

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はじめに

※本記事は、2021年度日本建築学会大会(東海)へ投稿された論文の再構成となります。

2019年度に改定された建築基礎構造設計指針1)では、杭の水平抵抗に関する評価について、各杭の変形性能の違いによる影響や杭頭変位の同一性が考慮できる群杭フレームモデルを採用することが望ましいと明記されました。

群杭フレームモデルは、杭を一本づつで解析するのではなく、すべての杭を一体としたモデル化です。建築基礎構造設計指針に記載されている内容としては、基礎梁は剛としてよいような記述がありますが、基礎梁剛性を考慮すべきかどうかは設計判断になると思います。

群杭フレームモデルを用いると、杭体の弾塑性を考慮した場合の各杭における応力再配分の効果も妥当性が高い評価を行えるため、経済設計につながる可能性がある一方で、杭体の弾塑性を考慮する場合は軸力変動の影響を適切に評価する必要があります。

本記事では、杭基礎の超高層RCモデルを対象にパラメトリックスタディを行い、モデル化の違いによる影響を確認してみた結果を示します。

対象解析モデル概要および外力

モデル概要を以下に示します。

  • 対象とするモデルはRC造30階建て, X方向5スパン, Y方向3スパンのモデルとしています。
  • 大梁断面はB×D=600×800~700×900、基礎梁断面は1000x3500(後述のモデルCでのみ考慮)、柱断面は800×800~1050×1050、杭はFc36の場所打ち杭を対象とし、杭断面は杭径1800mm(P1), 杭径2100mm(P2)の2断面としています。杭長は50mとしています。
  • 水平外力は、L1(上部構造のC0=0.20相当), L2(上部構造のC0=0.35相当)の2ケースとし、下図のX方向(紙面左から右方向)の外力としています。
  • 地盤ばねは建築基礎構造設計指針の地盤ばねとし、変形に依存した非線形性を考慮します。
上部-杭一体モデル
水平地盤特性

各モデルの概要

各モデル概要を以下に示します。

左から、モデルA, モデルB, モデルC

モデルAによる曲げひび割れ算定式 : Mc=(0.56√Fc+σL)・Ze

ここで、Mc:曲げひび割れ耐力(Nmm), Fc:コンクリート基準強度(N/mm2), σL:長期応力度(N/mm2), Ze:断面係数(mm3)

解析結果

レベル1解析結果

レベル1の引張側杭と圧縮側杭についての比較結果を示します。

以下のような知見が得られました。

  • モデルB,モデルCはほぼ近い結果となった。
  • モデルAは他のモデルに対してやや差異が大きくなった。
引張側(レベル1)
圧縮側(レベル1)

差異の原因について考察します。

モデルAは軸力変動を考慮しないモデルのため、曲げひび割れ耐力は既往の式で算出していますが、その際の軸力は長期軸力を用いています。軸力変動が大きくない場合にはこのモデル化でも大きな差異は生じないと考えられますが、今回は非常に引き抜きが大きくなると考えられる超高層モデルを考えています。そのため、曲げひび割れまでの間でもそれなりに変動軸力が大きく、モデルAのひび割れ耐力が過大評価になっていることが考えられます。

以下は、Y1通りにおける各位置の杭頭せん断力です。

Y1通りの各杭における杭頭せん断力(レベル1)

モデルAは曲げひび割れ耐力が大きくなっているため、引張側の杭でもひび割れに達しておらずすべての杭でほぼ同じせん断力となっています。

対して、モデルB,Cでは引張側の杭にひび割れが発生して応力再配分が発生した結果、各位置のせん断力分担に差が生じています。

レベル2解析結果

つづいて、レベル2の引張側杭、圧縮側杭の解析結果を示します。

レベル2では、レベル1でよく一致していたモデルB,Cでも差異が生じる結果となっています。

引張側(レベル2)
圧縮側(レベル2)

この要因については、モデルB,Cの差異である基礎梁剛性の影響が大きくなっていることが挙げられます。

以下にレベル1,レベル2における各杭位置の変形を、モデルB,Cで比較した結果を示します。

Y1通り各杭位置の鉛直変位(レベル1)
Y1通り各杭位置の鉛直変位(レベル2)

モデルBでは基礎梁が剛体となっているため変形分布は平面保持挙動となっています。

モデルCでは基礎梁剛性があるため、曲線的に分布しています。

レベル1の時点では軸剛性の低下が小さいため、基礎梁剛性の影響は小さいですが、レベル2では軸剛性の低下が大きくなってくることで差が顕著となっています。

このように、非常に軸力変動が大きく、引張側の杭で軸剛性の低下が顕著に見られる場合には、基礎梁の剛性考慮の影響が大きくなることがわかりました。

さらに、各杭位置のせん断力分担を示します。

上記で示したような鉛直変位差が、各杭のせん断力分担にも大きな影響が生じていることがわかります。

Y1通り各杭位置のせん断力(レベル2)

まとめ

各モデルの検討により、軸力変動が大きい場合の杭の設計に関していくつか知見が得られました。

まとめを以下に示します。

  • 軸力変動が大きい杭は、軸力変動を時々刻々考慮しない場合には、曲げひび割れ耐力は長期軸力よりもある程度変動した軸力を想定することが望ましい。
  • 引き抜きによる顕著な剛性低下が生じる杭がある場合は、基礎梁に適切に剛性を考慮する(本文中ではモデルCでのみ考慮)ことが望ましい。

構造計画研究所では、上記のようなそれぞれのモデルによる解析を支援するパッケージソフトや、解析コンサルティングも行っております。

上部構造-杭一体解析は杭断面の変更により上部構造の設計も影響を受けてしまったり、杭を細かく分割することにより解析時間が長くなることから研究的な段階となり実務設計ではなかなか扱いづらいですが、下部構造を分離したモデルであればパッケージソフトRESP-Dの杭応答変位法オプションでスムーズに検討できます。このソフトでは、基礎指針2019年度版の応答変位法にも対応しています。

詳細は以下もご参照ください。

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