どれくらいの揺れで物は倒れるの?(3)では、薄型テレビの挙動について、テレビを台に固定した場合の挙動や固定する時の注意点をシミュレーションにより検討した事例をご紹介しました。今回の記事では、超高層建物上階でのキャスター付きコピー機の動きに関する実験結果をご紹介します。タイトルは「どのくらいの揺れで物は倒れるの?」ですが、今回は地震時の移動の話がメインです。
この記事の内容は、東京工業大学翠川研究室とKKEの共同研究成果「正月俊行: 長周期地震動による超高層建物での家具の地震時挙動と室内被害把握, 2015年2月」の抜粋です。
コピー機の振動実験
試験体
本物のコピー機を試験体に使って壊せるほどお金に余裕はありませんので、コピー機を模した以下のようなキャスター付き木箱を使います。実際のコピー機を参考に、幅・奥行き60cm・高さ125cmとし、中に重りを入れて質量が110kgになるようにしています。床材は、オフィスで一般的に用いられているタイルカーペットです。
加振方法
コピー機を壁際に配置する際、奥の方は手足が届きにくいので手前の2箇所だけ固定されたことを想定し、4隅にあるキャスター内、2箇所だけ固定して加振を行っています。ストッパーをかけた位置に対して、直行と平行方向の2方向の加振をしています。なお、超高層建物上階を対象とした研究ですので、地震による揺れとしては長めの周期は2~5秒の正弦波で加振を行っています。なお、振動台のサイズの制限上、最大移動量が約130cmとなっており、それ以上移動した場合は壁に衝突します。
加振結果
下表に加振実験により得られたキャスター付き木箱の移動の有無と移動量の一覧を示します。 左から2~5列目は加振波の周期・加速度・速度・変位で、右側の「移動の有無」の列が、キャスター付き木箱の移動の有無と移動量を示しています。移動量が「130cm以上」となっているケースは、振動台サイズの制限上計測できた最大の移動量が130cmというだけで、実際はそれ以上に動いたということを意味しています。今回の実験だと最低でも移動量は55cmあり、非常に大きく移動していることが分かります。
下図に、加振周期3秒・速度105cm/sの加振時における振動台の加速度とキャスター付き木箱の床に対する相対変位の時刻歴波形を示します。相対変位0cmがキャスター付き木箱の初期位置で、移動量が大きくなるほど変位の値が小さくなります。壁に衝突する-130cmの時点で変位は頭打ちになっています。質量110kgのコピー機が衝突する際のスピードと衝撃はかなりのもので、人が負傷することが容易に想像できるくらいです。
上図の変位波形を見ると、ストッパーをかけたキャスターとは逆側(負側)に偏って移動していることが分かります。これは、下図のように、キャスターの片側だけ止められていることにより、移動する向きによって摩擦力の大きさが変わってしまうことで発生します。超高層建物が長周期地震動を受けた場合の揺れの継続時間は非常に長いので、周囲の壁等に衝突しない限り、どんどん移動量が大きくなってしまうと考えられます。
下図は、平行加振ケースにおけるキャスター付き木箱の挙動を模式図にしたものです。最初はストッパーがかかっている側を中心に回転運動を繰り返し、回転角がある程度大きくなると、直行加振ケースと同様に、ストッパーとは逆側に偏って移動を始めるような動きとなります。実験では1方向の加振ですが、実際は3方向の揺れですので、直行加振ケースと平行加振ケースの挙動が複合して発生すると考えられます。コピー機を壁際に配置し、前側(壁とは逆側)のキャスターのみにロックをかけていた場合、前後方向の揺れだけであれば、壁にぶつかるだけで移動量が大きくなることはありませんが、左右方向の揺れも合わさることでコピー機の向きが変化し、壁や他の家具・什器がない方向にコピー機の背面が向いてしまうと、移動量が累積して大きくなっていくと考えられます。
コピー機のキャスターロックは4つすべてかけることが望ましいです。なお、対角方向の2つにロックをかけることで移動量がかなり抑えられるという研究もあります。
まとめ
今回の記事では、 超高層建物上階でのキャスター付きコピー機の動きに関する実験結果をご紹介しました。