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大規模台風時の高潮災害の防災対策への検討(2)- シミュレーションのタイムラインへの活用例 | KKE解析技術者ブログ|構造計画研究所

土木 風水害

大規模台風時の高潮災害の防災対策への検討(2)- シミュレーションのタイムラインへの活用例

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1.はじめに

 近年の地球温暖化等の影響により,台風の大規模化や平均海水位の上昇が懸念されている.一方で我が国の都市部の多くは沿岸の低平地に位置し,今後高潮災害のリスク増大が予想される.

 東日本大震災以降,世の中の意識変化などにより地震や津波などさまざまな災害に対する取組は進んでいる.しかし,各種ハザードマップの整備状況によると,他の災害に比べ高潮ハザードマップの整備率は極端に低く,その発生頻度に対する高潮災害への取組はやや遅れ気味である.その様な状況の中,農林水産省等から『高潮浸水想定区域図作成の手引き(平成27年7月)』が公表され,技術的観点からは統一的な手法が示された.そこで,伊勢湾台風の再現解析を行うとともに,その結果を用いて,高潮災害の防災対策として有効であるタイムラインに対して,シミュレーション結果を活用した場合の事例をまとめた

2.伊勢湾台風の再現解析

2.1 使用データ

 近年の高潮災害で被害が甚大であった,1959年伊勢湾台風の再現解析を試みた.伊勢湾台風は1959年9月21日12時に発生,9月27日12時消滅とされている1).この期間から日本列島を通過する,9月26日15時から9月27日3時までの12時間の再現解析を行った.台風の移動速度は気象庁による気圧・経路位置情報,中心気圧は台風上陸時の値からそれぞれ設定した.

2.2 最高潮位とその到達時間の比較

 中央防災会議2)による伊勢湾台風による潮位記録とその時刻を図1,図2に示す.最高潮位は湾口付近では2m弱であるが,湾奥では3.5mに達する.また,湾内の三重県側では最高潮位到達時刻は20時程度であるが,湾奥で21時以降,渥美湾奥で22時30分程度となっている.

 シミュレーション結果から得られた潮位の時刻歴変動を図3に示す.シミュレーションより得られた水位と到達時刻は,伊勢湾の三重県側のA地点で2m,20時,伊勢湾奥のB地点で4m,22時,渥美湾奥のC地点で4m,23時となった.水位や最高潮位の到達時刻は実際の記録と概ね一致している.

3.タイムライン解析

3.1 タイムラインの概要3)

 タイムラインは,「いつ」,「誰が」,「何をするか」を,あらかじめ時系列で整理した防災行動計画である.2012年に米国で発生したハリケーン・サンディで大きな被害軽減効果が認められた.

 一方で大型台風による高潮等の大規模水災害は,地震,津波,ゲリラ豪雨等と異なり,事前にある程度予測が可能な災害である.よって,タイムラインを用いて関係機関が互いに協力して被害の発生を前提とした対応策を事前に整備し,実行することは非常に有効な手段である.

3.2 シミュレーションを活用したタイムライン

  高潮シミュレーションより三重県松坂(A)と名古屋市沿岸部(B)について,タイムラインの中で重要なポイントである,「上陸(潮位が急上昇する時間)」,住民の「避難開始」と「避難完了」の時間設定を試みた.ここでは避難完了時間は上陸(潮位が急上昇)する9時間前とした.また,避難に必要な時間は,避難準備時間を1時間,避難時間を徒歩避難(速度1m/s)で沿岸部の浸水域中央付近から浸水域外までの直線距離で概算した(図4の浸水深分布より概算).この仮定だと避難に必要な時間は,Aで2時間,Bで5時間と浸水域が広いBの方がAより3時間ほど長くなる.

 再現解析結果や既往の検討内容4)を参考にタイムラインの作成を試みた(表1).表から,Bで潮位が急激に上がる時刻を基準時刻(0h,再現解析では20時)とした場合,シミュレーション結果よりA地点で潮位が上がるのが-3h(17時)となる.それぞれ仮定条件より避難開始時間を逆算するとA地点,B地点ともに-14h(6時)となる.実務で利用するためには更なる検討が必要であるが,シミュレーション結果を活用したタイムラインにより対象地点の特性を考慮した評価ができた.

4.まとめ

  災害リスクの増大が懸念されている高潮災害への対応を行うため,高潮シミュレーション結果を用いたタイムラインの検討を試みた.災害時に時系列での対応をまとめるタイムラインに対して,災害の時系列での変化を推定できるシミュレーションは有用であると思われる.今回は避難に必要な時間は大掴みな仮定条件の下で行っているが,現在は避難する人々の行動などを考慮したシミュレーションも可能であり,より細かな条件を考慮した検討も進めていきたい.また,気象庁による台風予報精度は年々向上しており,24時間前予報を活用したシミュレーションによる,直前の被害予測も可能である.本来タイムラインは,実際に利用する方々との話し合いにより作成を進めるべきものであり,今後はそのような視点での取り組みも進めていきたい.

参考文献

1)国立情報学研究所:デジタル台風 台風画像と台風情報,http://agora.ex.nii.ac.jp/digital-typhoon/
2)中央防災会議:災害教訓の継承に関する専門調査会報告書 1959 伊勢湾台風,平成20年3月
3)国土交通省:タイムラインホームページ,https://www.mlit.go.jp/river/bousai/timeline/index.html
4)東海ネーデルランド高潮・洪水地域協議会:危機管理行動計画, https://www.cbr.mlit.go.jp/kawatomizu/tokai_nederland/

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