どれくらいの揺れで物は倒れるの?(1)では、地震による室内被害対策を考える上で重要な揺れの大きさと物の動きの関係について、よく用いられている評価方法をご紹介しました。今回の記事では、身近にある薄型テレビが地震時にどんな動きをするのか、また、どのくらいの揺れで倒れるのかについてご紹介したいと思います。
この記事の内容は、東京工業大学翠川研究室とKKEの共同研究成果「正月俊行: 長周期地震動による超高層建物での家具の地震時挙動と室内被害把握, 2015年2月」の抜粋です。
薄型テレビの振動台実験
テレビの諸元・加振方法
一口に「薄型テレビ」といっても様々なものがあるので、今回の記事で紹介するテレビがどんなものか書いておきます。実験を実施したのが10年くらい前ですので、今の標準的なサイズからすると小さめで、ずんぐりした形状ですね。
以下のように振動台上に載せてテレビを前後に加振し、その変位を変位センサーで計測しています。
実験結果
実験結果を以下に示します。横軸が加振周期で縦軸が加振加速度です。図には、実験結果の他に簡易評価式(矢崎・他, 1998)による転倒限界(破線)も表示しています。
この図に対する考察は以下の通りです。
- 周期0.7秒前後より長い周期帯では転倒限界加速度が400cm/s^2強で、0.7秒より短い周期帯では急激に転倒限界が大きくなっています。
- 短い周期帯で転倒限界が急激に上がるという傾向は、簡易評価式の結果も実験結果も同じです。一方、転倒限界加速度の大きさについては、短周期側では簡易評価式が過小評価、長周期側では1割程度過大評価となっています。
- テレビの地震時挙動の特徴は、上部の画面が前後に揺れる 「首振り」※ ですが、簡易評価式ではその影響が考慮されていません。また、簡易評価式ではロッキングと滑り挙動が同時に発生する想定をしていませんが、実際はそのような挙動が発生しています。このような要因が簡易評価式と実験結果の違いとして現れていると推測されます。首振りの影響が大きいのは長周期側で、ロッキングと滑りの同時発生の影響が大きいのは短周期側です。
※「首振り」はテレビの接地面が浮き上がらずに振動する挙動で、「ロッキング」は接地面が浮き上がる挙動です。
実験の再現シミュレーション
ここからは、個別要素法を用いて前述の振動実験の再現シミュレーションをした結果を紹介していきます。計算モデルは以下のようになっています。薄型テレビの首振り挙動を表現するため、上部画面と土台を別々の剛体で作成し、回転ジョイント(回転ばね)で連結しています。実物の首振り角度や共振周期に合うように回転ジョイントの剛性や可動範囲を設定しています。
シミュレーション結果の例として、加振周期1秒、加振加速度410cm/s^2のケースの動画を以下に示します。最初は首振りから始まり、揺れが大きくなるにつれてロッキング→転倒と挙動が変化しているのが分かります。
シミュレーションを多数の加振周期と加振速度の組み合わせに対して実施し、テレビがどのように挙動したのか(転倒orロッキングor動き無し)をプロットしていくことで、実験で得られた転倒限界が再現できるか検討した結果を以下に示します。横軸が加振周期、縦軸が加振速度です。周期0.6~0.7秒くらいで転倒限界を過大評価している点については改善の余地はありますが、0.7秒前後よりも長い周期帯については実験結果で得られた転倒限界をおおむね再現できていることが分かります。首振りやロッキングしながら滑る挙動をシミュレーションで表現しているため、簡易評価式よりは実験に近い結果が得られています。
まとめ
本記事では、身近にある薄型テレビの地震時挙動に対し、既往の振動実験結果とその再現シミュレーションを実施した結果をご紹介しました。