建築

台湾ブラインド解析コンテストに参加してきました

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昨年、成功大学(台湾)と弊社のRESPチーム若手メンバーが共同で、台湾の國家地震工程研究中心(NCREE)が主催したブラインド解析コンテスト(Blind Analysis Contest on a 7-story Reinforced Concrete Building under Near-fault Earthquake)に参加してきました (コンテストHP) 。

本コンテストでは竹中工務店様のチームと同率で1位の成績を獲得することができました。弊社HPにも今回のブラインド解析コンテストに関するNewsReleaseがございますので、よろしければご参照ください。
台湾で実施された解析コンテストにて最優秀チームに選出

今回はこの台湾ブラインド解析コンテストの概要と解析上特に工夫した点についてご紹介したいと思います。

ブラインド解析とは

ブラインド解析とは、一般に「実験の各種条件のみから、その実験結果を数値解析によって推定すること」を指します。その推定結果がどれだけ実験結果と近い値になるかを競うのが、ブラインド解析コンテストです。解析技術の精度向上や若手技術者の育成を目的として開催されることが多いと思います。

コンテスト概要

目的

ご存知の方も多いとは思いますが、台湾は日本と同じく地震の発生頻度の高い地震国であり、1999年の台湾集集地震(921地震)や 2016年の台湾南部地震、2018年の花蓮地震では多くの死傷者がでています。そのため、建築物の設計において、地震時の損傷推定の精度を向上させることが求められています。

台湾における地震被害

今回の解析コンテストは、以下2点を目的として開催されました。

  • 台湾で安全性が問題視されているピロティ形式の建物が、直下型地震発生時にどのような挙動をするのかを考察すること
  • 各チームが提案した鉄筋コンクリート造建物の非線形時刻歴解析手法を比較すること

8つの国と地域から66チームがコンテストに参加し、解析手法の技術力を競い合いました。

実験概要

  • 対象建屋 
    •  1/2スケールのRC7階建て建物(台湾で一般的な構造形式)
      • 柱にはColumn AとColumn Bの2種類の断面が存在する。
      • ピロティ形式(一階の階高が他の階の約2倍)
      • 3階以降の短辺方向には壁が配置されれている。
  • 地震波 
    • 海溝型地震1波
    • 直下型地震4波(大きさの異なる地震波4波)
実験対象の構造物
2種類の柱断面(単位はcm)

解析方針

建築物の解析に用いることのできる解析手法としては大きく、フレーム解析と有限要素法の二つに分けられ、それぞれ特色があります。
建築設計においては、計算時間の観点からモデル化を単純化したフレーム解析が広く使用されます。一方で、緻密で精度の高い計算が要求される場合は、有限要素法が用られることが一般的です。(同率1位の竹中工務店はFEM解析を使用しています。)
今回は、解析モデルの建築構造分野への適用範囲を広げるために、設計で広く用いられている「フレーム解析」にて挑戦することにしました。

建物モデル

建物モデルを作成する上で特に工夫したところを2点ご紹介したいと思います。 対象構造物の実験結果はコンテスト時非公開ですが、各部材に対する個別実験の結果は公開されていました。モデル化に当たっては、部材実験の結果を頼りに各パラメータの調整を行いました。

柱のモデル化

RESPでは柱のモデル化にファイバーモデルを用いております。ファイバーモデルとは部材断面を複数の微小断面(セグメント)に分割し、その各セグメントが構成則(応力-ひずみ関係)を持つモデル化方法です。ファイバーモデルについては過去にいくつかRESP技術ブログにて紹介していますので、詳細はそちらをご覧ください。

ファイバーモデルに関する参考記事 (RESP技術ブログへのリンク)
ファイバーモデル入門
ファイバーモデル入門計算理論編

一階の長柱に対する部材実験の様子を見ると、柱脚部が大きく損傷していることが分かります。実際の建物実験でも同様の現象が想定され、ファイバーモデルでそのような挙動を評価できるように工夫する必要がありました。

柱の個別実験結果


具体的にファイバーモデルに対して施した工夫としては、以下の3点になります。

  • 塑性化長さの設定
  • 鉄筋の滑りを考慮した骨格曲線の設定
  • コンファインド効果の考慮

「塑性化長さの設定」と「鉄筋の滑りを考慮した骨格曲線の設定」はRESPチームの過去の研究成果を利用したものです。参考記事の中でもご紹介しておりますが、ファイバーモデルは平面保持仮定を前提としております。そのため、コンクリートと鉄筋の付着が切れるような現象は一般に考慮できません。しかし、鉄筋にトリリニアの骨格曲線を与えることで、ファイバーモデルであっても近似的に鉄筋の滑りを考慮できるような工夫を施すことができます。 具体的な手法については、下記の参考文献[1]をご覧ください。
[1] 鈴木, 梁川, 宇佐美, 木村, 履歴形状を考慮した材端剛塑性ばねモデルと適合するRC部材のファイバーモデル化 その1 両端固定梁要素による検討, 2018, 日本建築大会

ファイバーモデルにおける鉄筋の骨格曲線(左)、塑性化長さの設定(右)

「コンファインド効果の考慮 」とは、せん断補強筋で囲われた内側のコンクリートはその拘束効果により耐力を向上することを考慮するものです。コンファインド効果は参考文献[2]を参照し、NewRCモデルで定義される骨格曲線のパラメータを変更することで表現しています。
[2] 平成4年度New RC研究開発概要報告書, 国土開発技術研究センター

以上のモデル化による解析結果と部材実験の結果を比較しました。(部材実験の結果は事前に配布されています。)結果を比較すると、柱の断面形状によらず最大耐力の値や耐力劣化の様子は概ねよく再現できているといえます。一方で履歴の形状が解析結果の方が小さくなっています。これは鉄筋の滑りを適切に考慮できる復元力特性が、除荷まで含めると不十分であることを示しており、今後の課題といえます。

柱個別実験結果と解析結果との履歴性状の比較

柱梁接合部

今回の実験では、台湾に存在する古い建築物を想定しています。そのため、図面から分かるように柱梁接合部にせん断補強筋が配置されず、柱梁接合部が先行して破壊する可能性があります。

柱梁接合部に関する図面抜粋(単位はcm)

実際に、柱梁接合部の部材実験では、柱梁接合部側面のコンクリートが剥がれるような現象が見られます。日本の一般的な建築物では確認できないような破壊形式のため、工夫してモデル化する必要がありました。柱梁接合部などを詳細にモデル化する方法(マクロエレメント[3]など)を用いる方法がありましたが、今回は他の事例への適用可能性を広げるために、なるべくフレームモデルの工夫で対処することを目標としました。

柱梁接合部における個別実験の様子

[3] 田尻, 塩原, 楠原, RC柱梁接合部のための弾塑性骨組解析用マクロエレメント, 2005, コンクリート工学年次論文集 27(2)

モデル化方針として、柱もしくは梁の耐力を柱梁接合部の劣化分だけ低減させることにしました。今回は以下の2つのモデルを作成し、部材実験と比較して、よく一致する方を採用しました。

  • 柱耐力低減モデル(Column Degrading Model)
    • 柱断面を予め欠損させる
      • 主筋の外側はせん断補強筋による拘束効果がないためすぐに剥がれてしまうと予想しました。
    • 鉄筋圧縮耐力を低減させる
      • 主筋近傍のコンクリートが剥落すると、鉄筋はほとんど圧縮力を負担できなくなります。そのため、鉄筋の圧縮耐力として座屈耐力を与え、材料降伏の値よりも低減させました。
  • 梁耐力低減モデル(Girder Degrading Model)
    • かき出し破壊による柱梁接合部の劣化に関する指針式を用いて、大梁の耐力を低減させる
柱耐力低減モデル概説(Column Degrading Model)
柱梁接合部における鉄筋付着喪失の種類
(A:側方割裂破壊、B:局所圧縮破壊、C:かき出し破壊)
鉄筋コンクリート造建物の靭性保証型耐震設計指針(案)・同解説, 1997を参照

以上のモデル化方針を基に部材実験との比較を行いました。まず、最大耐力の結果を比較します。青色の実線が実験結果、赤色の実線が柱耐力低減モデルの結果、点線が梁耐力低減モデルの結果を表しています。
耐力の大きさに注目すると、Column Aでは柱耐力低減モデル の方が近い値を示し、一方でColumn Bでは梁耐力低減モデル の方が近い値を示しています。これはColumn Bの方が断面が大きく、接合部周辺のコンクリートが剥落しにくいためだと推察されます。
以上から、Column Aでは柱耐力低減モデルを、Column Bでは梁耐力低減モデルを使用することにしました。

柱梁接合部の個別実験と解析結果の比較(最大耐力の比較)

次に、上記のモデル化を用いて繰り返し試験の結果を比較してみます。Column Aでは概ね実験結果と良い一致を示すことを確認できました。一方で、Column Bでは変形が大きくなり耐力劣化による負勾配が強くなる領域で実験結果との乖離が大きくなっています。この領域は数値計算上解きにくい箇所になり、このような領域に対しても求解できる数値計算手法やモデル化方法などは今後の課題です。本コンテストでは、耐力と変形が小さい領域の履歴が概ねよい一致を示していることから、このモデル化を全体の建物モデルに反映させることとしました。

柱梁接合部の個別実験と解析結果の比較(履歴則の比較)

解析結果と実験結果

以上のモデル方法を全体の建物モデルに反映し、結果を提出しました。 コンテスト終了後に通知された、実験結果と解析結果の比較を最後に示したいと思います。
下図の赤色がKKEの解析結果、黒色が実験結果を表しています。地震波の大きさが小規模から中規模の場合にはよい一致を示していることが分かります。

各階最大変位の比較(Stage-2、Stage-3)
各階層せん断力の比較(Stage-1)

一方で、地震波が大きくなると実験値からの乖離が大きくなります。これは、KKEのモデルが、柱や梁の耐力を柱梁接合部が降伏していない段階から低減させていることに相当しているため、解析結果が大きな値を示していると考えられます。柱梁接合部の適切な考慮方法については今後の課題といえます。

各階最大変位の比較(Stage-4)

まとめ

成功大学(台湾)と共同でピロティ形式のRC構造物に対するブラインド解析を行いました。竹中工務店様と同率で1位の結果となることができましたが、同時に解析上の課題も多く発見することができ、今後改善を図れるような工夫を考察してみたいと思います。

今回のブラインド解析コンテストを通して、学術機関である台湾の成功大学やNCREEと関係を深めることができました。台湾など海外での貢献も視野に入れながら、各種パッケージ製品の開発や解析に努めて参ります。

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